ロシア、和平にらみ進軍=ウクライナ侵攻3年半―「トランプ・ディール」は不発 2025年08月25日 14時13分

7月31日、ウクライナ東部ドネツク州チャシフヤールで、戦闘により破壊された建物の前に立ち、ロシア国旗を振る兵士=ロシア国防省が公開した映像より(EPA時事)
7月31日、ウクライナ東部ドネツク州チャシフヤールで、戦闘により破壊された建物の前に立ち、ロシア国旗を振る兵士=ロシア国防省が公開した映像より(EPA時事)

 ロシアのウクライナ侵攻開始から24日で3年半が経過した。今月中旬、和平に前のめりなトランプ米大統領がロシア、ウクライナ首脳と相次いで会談したが、戦争終結に向けたディール(取引)はなかった。ウクライナが再び侵略されないための「安全の保証」を欧米が議論する中、プーチン政権はゼレンスキー政権の戦意をくじいて好都合な条件を引き出そうと、ウクライナ東部で進軍を加速させている。
 ◇制圧阻む要塞
 プーチン大統領は東部ドンバス地方(ドネツク、ルハンスク両州)全域からのウクライナ軍撤退を要求し、トランプ氏は「領土交換」で合意するようゼレンスキー大統領に迫った。ゼレンスキー氏は「降伏勧告」だと反発。ドンバス地方の割譲を拒否した。
 ロイター通信によると、ウクライナ軍はいまだドネツク州で約6600平方キロを支配している。同州全体の4分の1程度とはいえ、東京都面積の約3倍に当たる。
 プーチン政権が開戦当初にドンバス地方「解放」を目標に掲げながら、3年半かけても全域を制圧できない理由は、ウクライナ軍支配地域の特殊性にある。一帯には2014年のロシアの軍事介入で州都ドネツクが親ロ派に占拠された後、強固な「要塞(ようさい)ベルト」(米シンクタンクの戦争研究所)が築かれた。
 22年からの全面侵攻では、要塞が防衛機能を発揮し、ドネツク州以外の防衛にも役立ったとされる。英誌エコノミストは「要塞の掌握が領土交換の狙いで、プーチン氏は軍事的に達成できていないことをトランプ氏に頼んだ」と伝えた。
 ◇包囲戦の危険性
 米国を舞台とする一連の首脳外交の裏で、ドネツク州での戦闘はさらに激化している。ロシア軍は交通の要衝ポクロフスクの完全包囲に向けて進軍。包囲戦は約10年前の軍事介入でもロシアに有利な停戦条件をのませる「最後の一押し」に使われた手法だ。
 要塞ベルトの一角である同州コスチャンチニフカにもロシア軍が迫っている。プーチン政権は、即時停戦や対ロ制裁の問題をトランプ政権に棚上げさせている間に、領土交換によらない自力での同州全域の制圧を視野に入れているとみられる。
 英紙インディペンデントは、ドンバス地方がロシアの手に渡れば、隣接する北東部ハルキウ州や東部ドニプロペトロウスク州への攻撃が容易になるという識者の話を伝えた。ゼレンスキー政権は、単に停戦で合意するだけでは再び侵攻されると懸念している。 

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