独裁打倒の暫定政府に不満も=「自由」後退、治安に影―シリア 2025年06月07日 14時23分

【イスタンブール時事】昨年12月のアサド政権崩壊から8日で半年となるシリア。市民は独裁体制からの解放による「自由」を享受する半面、治安悪化などへの不満も渦巻く。「誘拐や殺害に歯止めが利かない」「また自由に意見を言えなくなってきた」。暫定政府には旧政権の負の遺産が重くのし掛かる。
中部ホムスで農業を営む女性シャハドさん(42)は、時事通信の電話取材に「私も子供たちも夜の外出が怖い」と漏らした。金目当ての誘拐が後を絶たず、多くの女性が姿を消したと明かし、「誰の仕業かも分からない」とおびえる日々だ。
政権崩壊後の1~2カ月は「誰でも自由に好きなことを言っていた」と振り返るシャハドさん。しかし、今は「治安が悪いなどと文句は言えない」と話す。シャハドさんはアサド前大統領と同じ少数派イスラム教アラウィ派。旧政権下で優遇されたアラウィ派を敵視する勢力から報復される事態を恐れている。
在英のシリア人権監視団によると、5月に殺害された市民は295人。暫定政府にとって治安対策は優先課題の一つだが、今も各地でアラウィ派を中心に人的な被害が続いている。
中部ハマに住むウムアリさん(55)は停電や断水、物価高騰の混乱を挙げ「以前と何も変わらない」と憤る。「アサドの時代は抑圧、恐怖があったが治安は保たれた。でも、今は誰かと一緒でなければ出掛けられない。シャラア(暫定大統領)は国をコントロールできていない」と手厳しい。
もっとも、政権崩壊に伴う変化に一定の評価を下す市民も多い。首都ダマスカス近郊の鍛冶職人アブアドナンさん(50)は「何より自由を取り戻し、政府から縁故主義も賄賂も消えた。制裁も解除されれば未来はもっと良くなると前向きな気持ちだ」と語った。