実利追求、強権称賛=戦略見えず、中東関与に不安―米大統領が歴訪終了 2025年05月16日 20時20分

【アブダビ時事】トランプ米大統領は16日、サウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)3カ国の訪問日程を終え、帰国の途に就いた。今回の歴訪では、各国から巨額の対米投資を取り付け、経済面の関係強化を重視する姿勢を前面に押し出した。だが、長期的な中東戦略は描けておらず、実利優先の「トランプ外交」には不安も残る。
トランプ氏は13日、サウジの首都リヤドで行った自身の対中東方針を示す演説で、絶対君主制のサウジなどを「アラブ流の現代の奇跡を成し遂げた。素晴らしいやり方だ」と手放しで評価。一方で人権尊重をうたう価値観外交を推進した過去の米政権を「自分が理解していない複雑な社会に介入した」と断じ、強権を容認する立場を鮮明にした。
冷戦後、唯一の超大国となった米国は「対テロ戦争」「中東の民主化」を掲げ、アフガニスタン、イラク戦争へと突入し、国力を疲弊させた。米国の軍事介入を自ら非難してみせた演説には、対外関与に抑制的な「米国第一」を掲げるトランプ氏の外交理念が色濃く反映されていた。
際立ったのは、オイルマネーを元手に経済発展を遂げた湾岸諸国への称賛だ。「世界はこの地域を混乱と争いではなく、機会と希望の地、文化と商業の十字路として目を向ける」と持ち上げる言葉からは、トランプ氏が湾岸諸国を「ビジネスパートナー」と見なしていることが分かる。
ホワイトハウスは、トランプ氏が今回取り付けた対米投資などの「ディール(取引)」の総額が2兆ドル(約290兆円)を超えたとそろばんをはじく。3カ国が外交成果にはやるトランプ氏の期待に応えた形だが、見返りとして米国製武器の大量購入や人工知能(AI)分野での技術協力などの実利を得るしたたかさものぞかせた。
トランプ氏は今回の歴訪で対シリア制裁解除の方針を表明。シリアのシャラア暫定大統領とも面会し、指導者としての「お墨付き」を与えた。路線転換の背景には、面会に同席したサウジの実権を握るムハンマド皇太子の働き掛けがあったとされる。シリア再建で影響力確保を目指す皇太子がトランプ氏に取引を持ち掛けた可能性がある。
一方、イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘で人道危機に陥るパレスチナ自治区ガザの停戦やイラン核開発など中東の行方を左右する問題では、本格的な解決の道筋を示すことはなかった。米国が「後ろ盾」であるはずのイスラエルを素通りしたトランプ氏の姿からは、中東安定に懸ける本気度はうかがえない。