関税のインフレ圧力は限定的、年内利下げが適切=FOMC議事録 2025年07月10日 08時55分
米連邦準備理事会(FRB)は、6月17日、18日に開かれた連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録を公開しました。今回の会合でFOMCは、フェデラルファンド金利(FF金利)の目標レンジを4.25~4.50%に据え置く決定をしました。
FOMC議事録(要旨)
■米国経済の現状と見通しに関する議論
【米国経済】
参加メンバーは、入手可能なデータから、経済成長は堅調であり、失業率は低水準にあり、インフレ率は低下したものの依然としてやや高い水準にあると評価した。個人消費と企業投資は堅調に推移したが、多くの参加メンバーは、家計や企業の景況感は依然として低迷していると指摘した。参加メンバーは、通商政策やその他の政府政策、地政学的リスクなどの動向を背景に先行きに関する不確実性は高まっているものの、全体的な不確実性は前回の会合以降、後退していると判断した。一部の参加メンバーは、不確実性の高さが、短期的に民間企業の雇用など経済活動を抑制する可能性があるとの見解を示した。雇用と経済活動には下振れリスク、インフレには上振れリスクがあるものの、実効関税率とその影響に関する予想が 4 月時点から低下したため、これらのリスクは低下していると判断した。
【インフレ】
参加メンバーは、インフレ率は 2022年のピークから大幅に低下したが、当委員会の 2%の長期目標に比べやや高い水準にとどまっていると指摘した。参加メンバーは、インフレ率の目標への回帰は、その進展は不均一であるものの引き続き進んでいると指摘した。一部の参加メンバーは、サービス価格の上昇率は最近低下している一方、財価格の上昇率は上昇していると指摘した。
インフレ見通しについて参加メンバーは、関税引き上げが物価に上昇圧力をもたらす可能性が高いと指摘した。しかし、その影響の発生時期、規模、持続期間についてはかなりの不確実性があり、多くの参加メンバーは、関税引き上げの影響が最終製品の価格に反映されるまでには、企業が関税引き上げ前に輸入した製品の在庫を消化するまで、影響を受ける製品やサービスの価格を引き上げない可能性があることや、中間財に対する関税がサプライチェーン全体に波及するには時間がかかる可能性があるとの見解を示した。複数の参加メンバーは、関税がサプライチェーンを混乱させたり、生産性を低下させたりした場合、物価上昇圧力が高まる可能性があると指摘した。多くの参加メンバーは、貿易協定が早期に締結され、企業がサプライチェーンを迅速に調整できる場合、あるいは企業が他の調整余地を活用して関税の影響を軽減できる場合、関税がインフレに与える最終的な影響はより限定的になる可能性があると指摘した。複数の参加メンバーは、関税の対象とならない企業も、その他の価格について、特に補完的な製品の価格が上昇した場合に、価格を引き上げる機会を利用すると指摘した。
参加メンバーは、長期のインフレ期待は引き続きしっかりと定着しており、その状態を維持することが重要であると指摘した。複数の参加メンバーは、短期のインフレ期待が高まっており、この動きが長期のインフレ期待に波及したり、短期的に価格や賃金の設定に影響を与える可能性があるとの見解を示した。少数の参加メンバーは、関税は一時的な価格上昇をもたらすだけで、長期のインフレ予想には影響を与えないと述べたが、大半の参加メンバーは、関税がインフレに持続的な影響を与えるリスクがあると指摘し、その持続性がインフレ予想にも影響を与える可能性を指摘した。
【労働市場】
参加メンバーは、労働市場の状況は引き続き堅調であり、「最大雇用」の推定値またはその近傍にあると判断した。複数の参加メンバーは、最近の労働市場の安定は、雇用と解雇の両方の鈍化を反映していると指摘し、複数の参加メンバーは、不確実性の高まりを受けて企業調査の回答者が採用決定を一時停止していると述べた。複数の参加メンバーは、移民政策が労働供給を減少させていることを指摘した。労働市場の見通しについて、ほとんどの参加者は、関税引き上げや政策の不確実性の高まりが労働需要を圧迫すると指摘し、労働市場の状況は徐々に軟化すると予想した。
【家計部門】
参加メンバーは、不確実性は依然として高いものの経済活動は堅調なペースで拡大を続けているとの判断を示した。経済は引き続き成長すると見込まれるが、参加メンバーの大半は今後の成長ペースは鈍化すると予想している。家計部門については、最近のデータには個人消費の堅調な伸びが続いていることを示すものもあるとの指摘があった一方、他のデータには軟化を示すものもあるとの指摘もあった。複数の参加者は、低所得世帯や中所得世帯が、より安価な商品やブランドへの切り替えを進めている、あるいは、こうした世帯が関税による価格上昇の影響を偏って受ける可能性があることを指摘した。多くの参加メンバーは、家計の景況感は、最近やや改善しているものの、依然として低水準にあると指摘した。
【ビジネス部門】
ビジネス部門については、活動には軟化兆しがあるものの、依然として堅調であると指摘があり、多くの参加メンバーは、ビジネス景況感の指標は低水準にとどまっていると述べた。投資支出に関しては、複数の参加メンバーは、ビジネス関係者の話として、企業は既存の投資プロジェクトは進めているが、不確実性の高まりから新規プロジェクト、特に大規模なプロジェクトについては慎重な姿勢を強めていると報告した。複数の参加メンバーは、大規模な投資プロジェクトについては、銀行や金融市場からの資金調達が容易であると指摘した。2、3人の参加メンバーは、人工知能への企業投資が生産性を押し上げる可能性があると指摘した。複数の参加メンバーは、製造業の生産活動に鈍化の兆しが見られ、製造業の調査や事業連絡報告において受注や出荷の減少が指摘されていると述べた。2、3人の参加者は、農業部門は農産物価格低迷と投入コストの高騰による圧力に直面していると指摘した。
■金融政策決定に関する議論
金融政策の検討において、参加メンバーはインフレ率がやや高めの水準で推移していることに留意し、純輸出や在庫の変動がデータの測定や解釈に影響を与えているものの、最新の経済指標は、経済活動が堅調な拡大を続けていることを示唆していると指摘した。さらに、参加メンバーは失業率が低水準で推移しており、労働市場も堅調を維持していると指摘した。4月にピークに達しその後低下している関税発表や予想の減少を受けて経済見通しの不確実性は後退しているが、全体的な不確実性は依然として高いと指摘した。すべての参加メンバーは、FF金利の目標レンジを4.25~4.50%に維持することが適切であると判断した。連邦準備制度による証券保有の削減プロセスを継続することが適切であると判断した。
金融政策の先行きについて参加メンバーは、経済成長と労働市場が引き続き堅調であり、現在の金融政策は緩やかな引締め状態にあることから、インフレ率と経済活動の先行きがより明確になるまで待つことが適切であるとの見方で概ね一致した。参加者は、金融政策は、今後入手する幅広い情報、経済見通し、リスクのバランスを踏まえて決定されることに留意した。参加メンバーの大半は、関税によるインフレ上昇圧力は一時的または限定的である可能性があり、中長期のインフレ期待は引き続きしっかりと定着しており、経済活動や労働市場に若干の弱さが生じる可能性があることを指摘し、今年、FF金利の目標レンジを若干引き下げることが適切であるとの見解を示した。2、3人の参加メンバーは、データが予想通りに推移すれば、次回会合でも政策金利の目標レンジの引き下げを検討する用意があると述べた。一部の参加メンバーは、最近のインフレ率は引き続き当委員会の目標である 2%を上回っており、企業や家計の短期的なインフレ期待の高まりなどの要因からインフレの上方リスクは依然として顕著である、あるいは経済は回復力を維持すると予想されることから、今年度はFF金利の目標レンジの引き下げは適切ではないとの見解を示した。複数の参加メンバーは、現在のフェデラルファンド金利の目標レンジは、中立水準をそれほど上回っていない可能性があると述べた。
インフレの上振れリスクについて参加メンバーは、関税の賦課により予想以上のインフレ上昇が生じた場合、あるいは、そのようなインフレ上昇が予想以上に継続した場合、あるいは、中長期のインフレ期待が著しく上昇した場合、特に労働市場や経済活動が堅調を維持している場合は、金融引き締め政策を維持することが適切であると指摘した。一方、労働市場や経済活動が大幅に弱まった場合、あるいはインフレ率が引き続き低下し、インフレ期待が引き続きしっかりと定着している場合は、金融引締め度を弱めることが適切である。参加メンバーは、インフレ率が高どまりする一方で、雇用見通しが弱まる場合、当委員会は困難なトレードオフに直面する可能性があることを指摘した。その場合は、各指標の目標までの距離、およびそれぞれのギャップが解消されるまでの予想される時間差について検討することになる、との見解で一致した。
さまざまなシナリオの可能性を検討した結果、参加者は、予想される関税の上昇傾向の鈍化、最近のインフレ率およびインフレ期待に関する好材料、個人消費および企業支出の回復力、あるいは個人消費や企業景況感の指標の一部における改善などを理由に、インフレ率の上昇や労働市場状況の悪化というリスクは低下したものの、依然として高いままであるとの見解で一致した。一部の参加メンバーは、インフレ率の上昇リスクは、雇用に関するリスクよりも依然として顕著である、あるいはその低下は限定的であると指摘した。少数の参加メンバーは、労働市場に対するリスクが優勢になっていると述べ、実体経済や労働市場に最近、一部で弱含みの兆しが見られることを指摘し、特に金融引締めを継続した場合、将来、状況が悪化する可能性があると述べた。参加メンバーは、インフレと経済見通しに関する不確実性は低下したものの、金融政策の調整には引き続き慎重なアプローチが適切であるとの見解で一致した。参加メンバーは、長期のインフレ期待を確実に安定させることの重要性を強調し、現在の金融政策スタンスは、経済情勢の潜在的な変化にタイムリーに対応できる立場にあるとの見解で一致した。
(H・N) [ゴールデンチャート社]
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■関連情報(外部サイト)
FOMC議事録(原文、FRB)