利下げ開始時期を見通せず=FOMC議事録 2024年07月04日 10時15分

 米連邦準備理事会(FRB)は6月11日、12日に開かれた連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録を公開しました。今回の会合でFOMCは、前回の会合に引き続きフェデラルファンド金利(FF金利)を5.25~5.50%に据え置く決定をしました。FOMCの議論はインフレ、労働市場、米国経済についての現状分析とレビューをするに留まり、、目新しい進展はありませんでした。

 参加メンバーからは、経済見通しや、いつまで金融引締めを維持するのが適切かについて、不確実性を指摘があり、金融引締め政策が総需要を抑制し、インフレ圧力をさらに緩和するためには忍耐が必要だと強調する参加メンバーや、インフレが高水準で持続するか、さらに上昇する場合には、FF金利の目標レンジを引き上げる必要があるとの見解も示めされています。

FOMC議事録(要旨) 

■米国経済の現状と見通しに関する議論

【インフレ】

 インフレ動向に関する議論で参加メンバーは、2023年後半にインフレ率が大幅に低下した後、今年前半は当委員会の目標である2%に向けた進展が見られなかったことに留意、インフレは依然高水準にあるものの、ここ数カ月、2%の目標に向けた進捗は緩やかであったと判断した。製品市場や労働市場における多くのデータが、物価上昇圧力が弱まっているとの判断を裏付けているとの見方を示した。数人の参加メンバーは、名目賃金の伸びが、物価との整合的な率を依然上回っているものの、特に労働集約的なセクターで低下していることを強調した。

 今後のインフレ抑制に寄与すると思われる様々な要因について参加メンバーは、製品市場や労働市場における需給圧力の継続的な緩和、過去の金融引き締めが賃金や物価に及ぼす影響の遅れ、賃貸市場の動向に対する家賃の測定値への反応の遅れ、あるいは供給サイドのさらなる改善の見通しなどを指摘した。また、企業による人工知能関連技術の導入に伴う生産性の押し上げの可能性を指摘した。参加メンバーは、長期的なインフレ期待が良好に定着されていることを確認し、これがディスインフレ・プロセスを下支えしているとの見方を示した。参加メンバーは、インフレが持続的に2%に向かっていると確信するには、さらに良好なデータが必要であることを確認した。

【労働市場】

 参加メンバーは、労働市場における需給バランスが引き続き改善していて、多くの労働市場指標が労働市場の逼迫度の低下を示していると指摘した。これらの指摘には、求人倍率の低下、退職率の低下、経済的理由によるパートタイム雇用の増加、採用率の低下、失業者に対する求人倍率のさらなる低下、失業率の緩やかな上昇などが含まれている。多くの参加メンバーは、労働力供給は労働力参加率の上昇や移民によって押し上げられたと指摘。労働市場は堅調を維持しているものの、欠員失業比率はコロナ・パンデミック前の水準に戻っており、労働市場のさらなる冷え込みが解雇ペースの増加につながるリスクがあると指摘があった。

 参加メンバーは、労働市場が引き続き堅調であれば、当委員会の雇用とインフレの両目標を達成することと整合性があるとの見解を示した。

【米国経済】

 参加メンバーは、最近の経済指標が経済活動が堅調なペースで拡大を続けていることを示唆していると指摘、今年の実質GDP成長率は2023年の力強いペースを下回ると予想し、経済活動に関する最近のデータは予想された減速とほぼ一致していると指摘した。今年の生産高成長率が低下すれば、強い労働市場と整合的であると同時に、ディスインフレ・プロセスを助長する可能性があるとの見解を示しました。参加メンバーは概して、当委員会の金融引締め政策が消費支出や投資支出の伸びを抑制し、経済活動のペースを緩やかに減速させる一因となっているとの見方を示した。

【リスクバランス】

 参加メンバーは、雇用とインフレの目標達成に向けたリスクは、この1年でより良いバランスに向かっていると評価した。経済活動の下振れリスクとして、労働市場の著しい悪化に伴う総需要の予想以上の鈍化や、低・中所得者層の家計の歪みが個人消費の急激な抑制につながるなどが挙げられた。CREセクター(*1)の一部や銀行のバランスシートの脆弱性に関連した経済活動の下振れリスクや、地政学的動向の悪化、貿易緊張の高まり、家賃インフレの持続化、金融条件の制約が不十分となる可能性、米国の財政政策の予想以上の膨張などの結果として、インフレ率が高止まりするリスクを指摘した。

(*1)Corporate Real Estate の略で、「企業不動産」をいう。 企業は、事業のために事務所、店舗、工場、福利厚生施設など各種の不動産を所有・賃貸借しているが、それらすべての不動産をCREという。

金融政策決定の関する議論

 金融政策の検討において参加メンバーは、最近の数カ月間、当委員会のインフレ目標2%に向けた緩やかな前進を示す一方で、堅調な経済成長と堅調な労働市場を示すデータが続いていることを確認した。参加メンバーは引き続きインフレ・リスクに高い関心を示した。参加メンバー全員は、現在の経済状況、雇用とインフレの見通しへの影響、および、リスクのバランスに照らして、FF金利の目標レンジを5.25〜5.50%に維持することが適切であると判断した。さらに、FRBが保有する証券の削減プロセスを継続することが適切であると判断した。

 金融政策の見通しについて、参加メンバーは、今年のインフレ抑制の進捗が昨年12月の予想より遅れていることに言及、インフレ率が当委員会の目標である2%に向けて持続的に下降しているとの確信を深める追加情報が出るまで、FF金利の目標レンジを引き下げることは適切ではないとの考えを強調した。今後の金融政策決定は、今後発表されるデータ、進展する経済見通し、リスクのバランスに基づいて行うことが重要であると強調した。参加メンバー数人からは、データに対する金融市場の反応や接触者からのフィードバックが、当委員会の政策アプローチが概ねよく理解されていることを示唆していると指摘があった。

 金融政策の見通しに影響しうるリスク管理上の考慮事項について、参加メンバーは、労働市場の逼迫が緩和しインフレ率が過去1年間で低下したことで当委員会の雇用とインフレの目標達成に対するリスクはより良いバランスに向かっているが、このことは、現在の金融政策が、当委員会のデュアル・マンデート(*2)の両面の追求において直面するリスクと不確実性に対処するのによりよいポジションにあると評価した。参加メンバーの大半は、現在の金融引締め政策の状態によって経済活動の成長が徐々に冷え込んでいると評価したが、一部の参加メンバーは、現在の政策がどの程度の引締め状態なのか不透明であると指摘した。

 参加メンバーは、経済見通しや、いつまで金融引締めを維持するのが適切かについて、不確実性を指摘した。当委員会の金融引締め政策が総需要を抑制し、インフレ圧力をさらに緩和するためには忍耐が必要だと強調する参加メンバーや、インフレが高水準で持続するか、さらに上昇する場合には、FF金利の目標レンジを引き上げる必要があるとの見解を示すメンバーもいた。多くの参加メンバーは、金融政策は予期せぬ景気低迷に対応できるよう準備しておくべきだと発言した。

(*2)デュアル・マンデートとはFRBの使命である最大雇用と2%のインフレ率の達成をいう

(H・N)

[ゴールデンチャート社]

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■関連情報(外部サイト)
FOMC議事録(原文、FRB)