移民送還に「思想狩り」の影=政権批判の外国人、相次ぎ拘束―トランプ米政権100日 2025年05月01日

 バイデン前米政権下での不法移民急増は有権者の不満を呼び、トランプ大統領が返り咲きを果たす原動力となった。トランプ氏は移民問題への対応を政権発足100日で「最も重要」な施策と位置付け、既に14万人近くを強制送還したとされる。だが、当初は犯罪歴のある者を優先するとしていた国外追放の対象者は、政権に批判的な移民や永住権保持者にも拡大。「思想狩り」や恐怖支配の思惑ものぞく。
 ◇見せしめ
 人口の3割を中南米系が占める西部コロラド州オーロラで3月17日、メキシコ出身のジャネット・ビスゲラ氏(53)が移民税関捜査局(ICE)に身柄を拘束された。治安が悪化する母国を逃れて1997年に不法入国し、滞在資格を申請しながら移民労働者の権利を訴えてきた活動家。トランプ政権1期目の2017年、タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれている。
 ICEは宗教施設や学校を捜索しない慣行があり、ビスゲラ氏は州都デンバーの教会に身を寄せて活動していた。しかし、トランプ氏は2期目に入り、慣行を破って身柄拘束に踏み切った。当時、ビスゲラ氏をかくまったマイク・モラン牧師(63)は「トランプは人々を恐怖に陥れることで権力強化を図っている」と指摘。拘束は「見せしめ」とみる。
 10年来の友人というロリータ・ナランホさん(70)は、ビスゲラ氏が収容された施設の前で連日抗議している。「彼女は法を犯していない。同じことは必ず他の人にも起きる」。移民追放は人道的にも経済的にも、米国にとって打撃になると警告する。
 オーロラに暮らす移民は拘束を恐れて家にこもり、街は「コロナ禍のよう」(ナランホさん)に静かになった。エルサルバドル系の空調整備業セルソ・チカスさん(50)は、「外出が怖い。就労資格は持っているが、少しでも書類にけちがつけば問答無用で送還される」と表情を曇らせる。
 ◇学生も追放
 トランプ氏の支持率は下落傾向にあるが、CBSテレビの最新世論調査によれば、不法移民送還については56%が「支持する」と回答した。オーロラの造園業ジョニー・ジロームさん(52)は「大賛成だ。不法滞在者が米国人の仕事を奪っている」と話す。
 トランプ政権の標的は不法移民にとどまらない。コロンビア大で反イスラエルのデモを主導した元大学院生マフムード・ハリル氏(30)も、3月に拘束された。パレスチナ系の同氏は永住権を持っていたが、「反ユダヤ主義的」だとして送還対象となった。
 米メディアなどによると、第2次トランプ政権でビザを取り消された留学生は1000人超に上り、法廷闘争が続いている。国務省は取り消しの基準を明示していないものの、マクマホン教育長官は「米国に好意的でない」学生の選別を強化するよう大学に求めた。
 「今起きていることは言論統制。沈黙は許されない」とナランホさんは言う。ビスゲラ氏の釈放を求めデモに参加する人は、少しずつ増え始めている。(オーロラ=米コロラド州=時事)。 

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メキシコ出身の活動家ジャネット・ビスゲラ氏=2017年2月、米西部コロラド州デンバー(AFP時事)
メキシコ出身の活動家ジャネット・ビスゲラ氏=2017年2月、米西部コロラド州デンバー(AFP時事)
移民活動家ジャネット・ビスゲラ氏をかくまっていた教会=米西部コロラド州デンバー
移民活動家ジャネット・ビスゲラ氏をかくまっていた教会=米西部コロラド州デンバー
米当局による移民活動家の拘束に抗議するロリータ・ナランホさん=3月30日、米西部コロラド州オーロラ
米当局による移民活動家の拘束に抗議するロリータ・ナランホさん=3月30日、米西部コロラド州オーロラ

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