米国事業拡大へ弾み=巨額投資、企業統治に懸念も―日鉄 2025年06月14日 14時40分

日本製鉄(写真上)と米USスチールのロゴマーク(いずれもAFP時事)
日本製鉄(写真上)と米USスチールのロゴマーク(いずれもAFP時事)

 日本製鉄と米鉄鋼大手USスチールの合意から約1年半、行き詰まっていた巨額買収計画が実現する見通しとなった。「買収」に批判的だったトランプ米大統領を翻意させた決め手は、買収後の巨額投資と、米政府に経営上の重要決定への拒否権を持たせる「黄金株」の発行。リスクを背負ってでも買収にこだわったのは成長が見込まれる米国市場での事業拡大へ弾みとなるからだ。
 日鉄は、関連会社を含めた国内外での年間粗鋼生産能力を1億トンに引き上げる目標を掲げており、USスチール買収によって8600万トンに大きく前進。特に中国の過剰生産で鉄鋼市況の低迷が長期化する中、「最大の高級鋼需要国」である米国事業拡大は成長戦略の重要な柱となる。
 日鉄によると、トランプ氏が承認した「パートナーシップ」に基づき、同社はUSスチールの普通株を100%取得。技術流出を防ぐ観点からこだわってきた「完全子会社化」が実現する。
 ただ、「米製造業の復活」を掲げるトランプ氏から承認を取り付けるため、日鉄は約2兆円の買収資金に加えて、米国での生産拡大や研究開発のため2兆円規模の投資を約束。さらに、安全保障上の懸念を払拭するため、取締役の過半数を米国籍とすることを決め、米政府と黄金株の発行を盛り込んだ国家安全保障協定を締結した。
 市場では、買収承認の見返りとして約束したUSスチールへの巨額投資は経営上の重しになるのではないかとの懸念が浮上。シンガポールに拠点を置く投資ファンドの3Dインベストメント・パートナーズは10日、黄金株を米政府が保有することについて「有事の際に機動的な構造改革を実施できない」と批判し、日鉄の今井正社長と森高弘副会長の再任反対を株主に呼び掛けている。 

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