「核なき世界」展望開けず=中国増強、世界で1万2100発―保有国、禁止条約拒む 2024年12月10日 14時32分

インタビューに答える国連の中満泉軍縮担当上級代表(事務次長)=11月19日、米ニューヨーク
インタビューに答える国連の中満泉軍縮担当上級代表(事務次長)=11月19日、米ニューヨーク

 【ニューヨーク時事】日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)へのノーベル平和賞授与に込められた「核なき世界」実現の願いとは裏腹に、中国をはじめとする各国は核戦力の強化に走っている。核軍縮を巡る国際情勢は厳しさを増し、核拡散の危険も高まっている。
 スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、今年1月時点の世界の核弾頭の総数は推計1万2121発で、約9割を米ロが占める。退役分を除いた9585発が使用可能なまま保管され、うち3904発はミサイルや航空機で直ちに運用できる「配備」状態という。
 総数は1980年代後半の約7万発をピークに減少してきたが、今年は配備中の弾頭数が前年比で60発以上増加した。国別の保有数では中国の核増強が顕著で、前年比90発増の推定500発に拡大。北朝鮮も前年比20発増の推定50発となった。米国防総省は中国の核戦力について、2035年までに約1500発と米ロに並ぶ水準に達すると分析している。
 核拡散防止条約(NPT)で核保有国と認められている米ロ英仏中に、インド、パキスタン、北朝鮮、イスラエルの事実上の保有国を加えた計9カ国のほぼ全てが「核戦力の増強を計画、または推し進めている」(SIPRI研究員)。次世代原子力潜水艦の開発や弾道ミサイルの多弾頭化など兵器の近代化も止まらない。
 17年には非核保有国の主導で、核兵器の開発から保有、使用、威嚇まで全面的に禁止する核兵器禁止条約が国連で採択された。21年に発効し、94カ国・地域が署名、73カ国・地域が批准している。
 条約制定に貢献したとして、国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」が17年のノーベル平和賞を受賞した。ノルウェー・ノーベル賞委員会は当時、核廃絶に向けて「核保有国の関与が不可欠だ」と呼び掛けたが、保有国は同条約への参加を拒み続け、米国の「核の傘」に頼る日本なども距離を置いたままだ。
 一方、191カ国が加盟するNPTは、直近2回の運用検討会議で連続して最終文書の採択に失敗。前回22年の会議で合意を阻んだロシアのウクライナ侵攻は今も終結していない。
 26年の次回会議も決裂に終われば、NPT体制が崩壊し、核兵器を持つ国が大幅に増えかねない。国連の中満泉軍縮担当上級代表(事務次長)は「世界がより危険となり、誰にとってもためにならないことだ」と指摘。「今進んでいる道は持続不可能だ」との危機感を国際社会で共有することが重要だと話した。 

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