インフレリスクは低減するも、長期目標を上回っている=FOMC議事録 2024年02月22日 10時57分
[ゴールデンチャート社] 2024年2月22日
米連邦準備理事会(FRB)は1月30日、31日に開かれた連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録を公開しました。今回の会合でFOMCは、前回の会合に引き続きフェデラルファンド金利(FF金利)を5.25~5.50%に据え置く決定をしました。この据え置き措置は4回連続となります。
記事録では今後の金融政策の見通しについて、「政策金利は今回の引締めサイクルのピークに達している可能性が高いが、インフレ率が持続的に2%に向かっている確信が深まるまではFF金利の目標レンジを引き下げることは適切ではない」との見方を示しています。FOMCが特に注目しているPCE総合インフレ率は、12カ月ベースでは2%を上回ったものの、6カ月ベースでは2%近くにあり、コアPCEでは2%を下回っています。次回の会合では、FRBのバランスシート問題について詳細な議論を開始するとしています。
FOMC議事録(要旨)
■米国経済の現状と見通しに関する議論
【米国経済】
最近の経済指標は経済活動が堅調なペースで拡大していることを示唆している。昨年第4四半期の実質GDP成長率は年率で3%を上回り、第3四半期の力強い伸びを下回ったが、それでも大半の予想を上回った。第4四半期の実質GDP成長率が予想外に力強かったのは、純輸出と在庫投資が予想以上に強かったためだとの指摘があった。消費は堅調なペースで伸び続けた。旺盛な需要に加え、多くの参加メンバーは、最近の経済活動の拡大は良好な供給動向によるものだとした。参加メンバーは、雇用の増加ペースは昨年初めから緩やかになったものの、依然として堅調であり、失業率も低水準を維持していると指摘した。インフレ率は過去1年間で緩和したが、依然として高水準にある。
【経済見通し】
現在の金融政策のスタンスは引締め状態であり、引き続き経済活動とインフレに下方圧力をかけていると判断している。参加メンバーは、製品市場と労働市場の需給がより良いバランスに移行していくと予想している。金融引締め政策に加え、供給環境の改善が続く中、インフレデータが良好であることから、参加メンバーは、当委員会の雇用とインフレの目標達成に向けより良いバランスに向かうと見ている。しかし、参加メンバーは、経済見通しは不透明であり、インフレリスクに引き続き高い関心を寄せているとの指摘があった。
【インフレ】
インフレに関して参加メンバーは、インフレは過去1年間で緩和したが、当委員会のインフレ目標2%を依然上回っていると指摘した。参加メンバーは、インフレ率の上昇が家計、特に物価上昇を吸収する手段が限られている家計には引き続き打撃を与えることを懸念している。インフレデータは昨年後半、大幅なディスインフレを示していたが、参加メンバーは、インフレ率が2%に向けて持続的に低下しているかを判断するためには、今後のデータを注意深く評価する必要があるとの見解を示した。
参加メンバーは、総合インフレ指数とコアインフレ指数の両方が改善していることに注目し、これらの基礎的な構成要素について議論した。12月のPCE総インフレ率は、12カ月ベースでは当委員会の目標である2%を上回ったものの、6カ月ではPCE総合インフレ率は年率で2%近く、コアPCEインフレ率は2%を僅かに下回った。参加メンバーは、最近のインフレ率の改善の一部は、いくつかのデータ系列で特異な動きを反映していると判断している。とはいえ、インフレ率が当委員会の長期的な目標に戻る上で、最近大きな進展があったとの見方が示された。多くの参加メンバーは、労働市場が引き続き良好なバランスに移行し、賃金の伸びがさらに緩やかになるにつれて、コアインフレ率のうち非住宅サービスでは徐々に低下するとの見通しを示した。多くの参加メンバーは、住宅サービスのインフレ率は、新規賃貸の賃料の低減が引き続き住宅サービスのインフレ指標に反映されるため、さらに低下する可能性が高いと指摘した。多くの参加メンバーは、労働力人口の増加や生産性の向上など、総供給の改善に伴うディスインフレ圧力を指摘したが、数人の参加メンバーは、サプライチェーンの正常化によるコア財価格の下落圧力は緩やかになりそうだと判断している。
【家計】
低失業率と堅調な所得増に支えられ、個人消費が予想以上に好調であることを確認した。労働所得の伸びが鈍化し、パンデミック関連の過剰貯蓄が減少すると予想されることから、今年の消費の伸びは緩やかになる可能性が高いと判断している。加えて、一部の家計(特に低・中所得層)の家計がますます逼迫している兆候を指摘する参加メンバーは、消費の先行きを下振れリスクと見ている。特に、クレジットカードのリボ払いや後払い決済の利用が増加していること、一部の消費者ローンの延滞率が上昇していることを指摘した。
【企業】
参加メンバーからいくつかの地区では、経済活動のペースは安定している、または堅調であるとの報告があった。製造業の地区別報告はまちまちで、活動が活発化した地区もあれば、低調または弱まった地区もあった。参加メンバーの何人かは、軟調な商品価格と借入コストの上昇が最近の農家収入の減少につながったものの、農地の価値は回復力に富んでおり、農家ローンの延滞は依然として低水準にあると指摘した。参加メンバーの中には、中小企業にとって資金調達や信用状況が特に厳しいと指摘する者もいた。
【労働市場】
労働市場は依然として逼迫しているが、需要と供給のバランスは改善し続けているとの指摘があった。雇用者数の伸びは、2023年最後の数ヶ月間、力強さを維持していたが、1年前のペースからは減速しており、失業率は低いままであった。失業者数に対する求人数の比率は過去1年間で低下したものの、依然としてパンデミック前の水準をいくらか上回っていることを確認した。労働市場の逼迫感の緩和とともに、いくつかの地区では、賃金上昇圧力が和らいでいるか、労働者を雇用し維持する能力が高まっているとの報告があった。参加メンバーは、労働力人口の増加、移民受け入れ、雇用マッチングプロセスの改善など、昨年の労働供給を押し上げたいくつかの進展について言及した。
【経済見通し】
経済見通しを取り巻く不確実性について議論では、インフレと経済活動の双方に対する上振れリスクとして、参加メンバーは、特に昨年の個人消費が驚くほど回復力に富んでいることを踏まえ、総需要の勢いは現時点の評価よりも強い可能性があると指摘した。さらに、複数の参加メンバーからは、金融引締め状態が緩和される、または緩和される可能性があることから、総需要に過度な勢いが加わり、インフレの改善が停滞するリスクについての言及があった。参加メンバーはまた、地政学的な動きからサプライチェーンが混乱する可能性、供給サイドの改善効果が薄れるにつれてコア財価格が反発する可能性、賃金の伸びが高止まりする可能性など、インフレの上振れリスクの要因についても言及した。インフレと経済活動に対する下振れリスクとして参加メンバーが指摘したのは、地政学的リスクによる需要の大幅な後退、一部の海外経済の成長率低下による負の波及の可能性、金融条件の引締め状態が長引くリスク、家計のバランスシートの弱体化が消費の予想以上の減速につながる可能性などであった。
【金融セクター】
金融の安定に関して、参加メンバーは、銀行システムに対するリスクは昨年春以降、顕著に後退しているとの見方を示したが、監視が必要だと評価する銀行もあるとしてその脆弱性を指摘した。参加メンバーは、一部の銀行について、資金調達コストの上昇、無保険預金への大きな依存、長期金利の上昇に伴う資産の含み損、CREエクスポージャー(*1)の高さなどに関連する潜在的なリスクを指摘した。参加メンバーは、金融システムの流動性は十分すぎるほど確保されていると判断し、FRBのバランスシートが正常化を続ける中、流動性の状況を考慮することの重要性について議論した。参加メンバーは、銀行に流動性圧力の兆候は見られないとしながらも、慎重な不測の事態への備えとして、銀行はFRBの割引窓口を利用する態勢を引き続き改善すべきであり、連邦準備制度理事会は同窓口の運営効率を引き続き改善すべきだと指摘した。加えて、参加メンバーからは、ストレス時に銀行が民間のホールセール資金調達(*2)に依存することの難しさについて意見が出された。数名の参加メンバーは、財務省市場の回復力に富んでいることを目的とした措置の重要性を指摘した。数名の参加メンバーは、サイバーリスクと、企業がサイバー事象から回復できることの重要性を指摘した。また、貯蓄を使い果たした低・中所得世帯の財務状況や、クレジットカードや自動車の延滞件数の増加に関するデータをモニタリングすることの重要性について、数名の参加メンバーがコメントした。
(*1)CREエクスポージャーとは、企業が所有する不動産が市場の価格変動リスクや特定のリスクに晒されていること。
(*2)ホールセール資金調達とは、レポやCPなどを通じて短期の資金調達をすること。
■金融政策決定の関する議論
今回の会合で適切な金融政策を検討するにあたり、参加メンバーは、最近の指標が経済活動が堅調なペースで拡大していることを示唆していることに留意した。雇用の増加は昨年初めから緩やかになったが、依然として力強く失業率は低水準で推移した。インフレ率はこの1年で緩和したが、依然として高水準にある。また、当委員会の雇用とインフレの目標達成に向けたリスクがより良いバランスに移行しつつあること、そして当委員会が引き続きインフレリスクに高い関心を寄せていることに留意した。参加メンバーはこれまで通りインフレ率を当委員会の目標である2%まで低下させるとの決意を固めた。
現在の経済状況、経済活動とインフレの見通しへの影響、およびリスクバランスに鑑み、参加メンバー全員は、今回の会合でFF金利の目標レンジを5.25〜5.50%に維持することが適切と判断した。また参加メンバー全員が、先に発表された「FRBのバランスシート縮小計画」に記載されているように、FRBの有価証券保有高を縮小するプロセスを継続することが適切と判断した。
参加メンバーは、インフレ率が当委員会の目標値である2%に向けて引き続き上昇し、労働市場における需給がより良いバランスで推移していることを示すデータを受けて、現在の政策スタンスを維持することが適切と判断した。参加メンバーは、今回の会合でフェデラルファンド金利の目標レンジを維持することは、当委員会の目標に向けた更なる進展を促進し、この進展を評価するための追加的な情報収集を可能にするとコメントした。
金融政策見通しについて、参加メンバーは、政策金利は今回の引き締めサイクルのピークに達している可能性が高いと判断した。参加者は、2023年中に見られたインフレ率の低下や、製品市場や労働市場において需給バランスが改善する兆しが強まっていることを指摘した。参加メンバーは総じて、インフレ率が持続的に2%に向かっている確信が深まるまでは、FF金利の目標レンジを引き下げることは適切ではないとの見方を示した。多くの参加メンバーは、当委員会のこれまでの金融政策措置と、現在進行中の供給環境の改善は、需給をより良いバランスへと導くために共に機能していると述べた。参加メンバーは、政策金利の今後の進路は、今後発表されるデータ、進展する見通し、リスクのバランスに左右されると指摘した。何人かの参加メンバーは、当委員会のデータに依存したアプローチについて明確に伝え続けることの重要性を強調した。
政策見通しに影響しうるリスク管理上の留意点について参加メンバーは、当委員会の雇用とインフレの目標達成に向けたリスクはより良いバランスに移行しつつあるものの、インフレリスクには依然として高い関心を寄せていると述べた。特に、インフレの上振れリスクは減少しているが、インフレ率は当委員会の長期目標を依然上回っていることに留意している。参加メンバーの中には、特に総需要が強まったり、供給サイドの改善が予想以上に鈍化した場合、物価安定に向けた進捗が滞るリスクを指摘する者もいた。参加メンバーは、金融引締め政策をどの程度の期間維持する必要があるかに関連する不確実性を強調した。ほとんどの参加メンバーは、政策スタンスを緩和する動きが早すぎるリスクを指摘し、インフレ率が2%まで持続的に低下しているかどうかを判断する上で、入ってくるデータを注意深く評価することの重要性を強調した。しかし、参加メンバーの何人かは、過度に引締め状態を長く維持することに伴う経済の下振れリスクを指摘した。
参加メンバーは、継続的なFRBのバランスシート縮小のプロセスは、マクロ経済目標達成に向けた当委員会の全体的なアプローチの重要な一部であり、バランスシートの縮小はこれまでのところ順調に進んでいると述べた。ON RRPファシリティ(*3)の利用が減少し続けていることに鑑み、多くの参加メンバーは、当委員会の次回会合でバランスシートの問題について詳細な議論を開始し、最終的に流出ペースを減速させる決定を導くことが適切であるとの見解を示した。一部の参加メンバーは、十分な準備金レベルの見積もりが不確実であることから、流出ペースを遅くすることで、その準備金レベルへの移行をスムーズにしたり、当委員会のバランスシート流出をより長く続けることができるのではないかと述べた。さらに、当委員会がフェデラルファンド金利の目標レンジを引き下げ始めた後も、バランスシートの流出プロセスはしばらく続く可能性があると指摘する参加メンバーもいた。
(*3)ON RRPとは、Overnight Reverse Repurchase Programの略で、FRBが米国債を担保に、金融機関から翌日物の資金を借り入れる際に支払う金利。
(H・N)
[ゴールデン・チャート社]
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