関税引き上げ、インフレ率上昇の可能性が高まる=FOMC議事録 2025年04月10日 08時54分
米連邦準備理事会(FRB)は3月18日、19日に開かれた連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録を公開しました。今回の会合でFOMCは、フェデラルファンド金利(FF金利)の目標レンジを4.25~4.50%に据え置く決定をしました。
FOMC議事録(要旨)
■米国経済の現状と見通しに関する議論
入手可能な経済指標が堅調なペースで成長を続ける経済と概ね均衡を保っている労働市場の状況を示しているものの、インフレ率はやや高止まりしている。参加メンバーは概して、経済が直面する不確実性の高さを指摘した。参加メンバーが入手した情報によると、政府の政策に対する不確実性が高まる中で、家計や企業の景況感が幾分悪化していることが示された。多くの参加メンバーは、高い不確実性は、消費者支出や企業の雇用と投資活動を抑制する可能性があること、あるいは、関税の引き上げによりインフレが加速する可能性があることを指摘した。その結果、雇用と経済成長に対する下方リスクが高まり、インフレに対する上方リスクが高まっていると見られるが、高い不確実性が経済見通しを包囲していることを示している。
【インフレ】
参加メンバーは、過去2年間でインフレは大幅に緩和されたものの、当委員会の2%という長期的目標と比較すると、依然としてやや高い水準にあると指摘した。一部の参加メンバーは、今年最初の2か月間のインフレデータは予想よりも高かったと指摘した。物価の主要な小分類の中では、住宅サービス価格のインフレは、過去の市場家賃の鈍化傾向と一致して緩和されてきたが、住宅以外のサービス価格のインフレは依然として高く、特に非市場サービス(*1)では高止まりしている。一部の参加メンバーは、コア商品のインフレ率が上昇していることを強調し、その大半は、こうした上昇は関税引き上げの予想による影響を反映している可能性があると指摘した。
(*1)非市場サービスとは教育、保健、社会福祉、 行政など非営利事業によるサービスをいう
インフレ見通しに関しては、関税引き上げの影響により、今年、インフレ率が上昇する可能性が高いと判断しているが、そうした影響の規模や持続性については大きな不確実性が伴う。一部の参加メンバーは、発表または計画されている関税引き上げ幅が、多くのビジネス関係者が予想していたよりも大きく、また対象範囲も広範であると指摘した。また、一部の参加メンバーは、ビジネス関係者らがすでにコスト上昇を報告しており、それは関税引き上げを予想してのことかもしれない、あるいは、ビジネス関係者らは、関税引き上げの可能性から生じるであろうより高い投入コストを消費者に転嫁する意思を示していると指摘した。ほぼすべての参加メンバーが、市場や調査に基づく多くの短期的な予想インフレ率の指標が最近上昇していると指摘した。
【労働市場】
参加メンバーは、労働市場の状況は概ね均衡を保っていると判断した。失業率は比較的低い水準で安定しており、名目賃金の上昇は引き続き緩やかであった。給与支払者数の伸びはの平均は、最近やや減速したものの、依然として堅調である。複数の参加メンバーは、企業のレイオフ発表や経済的理由によるパートタイム労働者の増加を強調した。参加メンバーの大半は、連邦政府職員の削減や連邦政府助成金の削減が、連邦契約業者、大学、病院、地方自治体、非営利団体などの雇用に影響を与え始めていると指摘した。政府契約に依存する多くの組織がレイオフや採用計画の中止を報告している。さらに、多くの参加メンバーは、政策に対する不透明感の高まりにより、採用決定を保留していると、彼らの取引先やビジネス調査の回答者が報告していると指摘した。また、複数の参加メンバーは、移民政策の引締めが労働力の供給を減少させ、特定のセクターでは賃金の上昇圧力につながることを懸念する取引先からの報告を伝えた。
【米国経済】
参加メンバーは、米国経済は堅調なペースで成長を続けているものの、個人消費の伸びは過去2四半期の急速なペースから鈍化する兆しがあることを指摘した。複数の参加メンバーは、1月と2月の小売売上高のデータがまちまちであったことは、消費が依然としてプラス成長を続けているものの、そのペースは鈍化していることを裏付けていると述べた。また、複数の参加メンバーは、小売業者や航空会社による収益見通しが最近、下方修正されいることは、低所得世帯および高所得世帯の両面で個人消費が弱含んでいることを示していると指摘した。参加メンバーは、消費を抑制する可能性のある要因として、消費者心理の悪化や、複数の世帯調査が示す家計の経済状況の悪化、過去数年にわたって堅調に伸びてきた労働所得や資産価格の大幅な上昇が今後も継続しない可能性などを挙げた。
【企業部門】
ほとんどの参加メンバーが、連邦政府の政策変更の潜在的な不確実性が増大し、景況感が悪化したとの報告が接触先や調査から寄せられており、それが多くの企業が資本支出計画を保留する要因となっているとコメントした。複数の参加メンバーは、自動車業界が相互に連結し国境を越えたサプライチェーンを有しているため、関税に関連した重大なリスクに直面していると強調した。一方、複数の参加メンバーは、ビジネスに友好的な規制や財政政策の変更、あるいは人工知能や関連技術による生産性向上が期待されることから、将来の企業収益性について楽観的な見通しが示されたと指摘した。一部の参加メンバーから、関税が農産物輸出価格の低下と投入コストの上昇によって農業部門の利益率をさらに圧縮する恐れがあることから、同部門が直面している緊張感が強調された。
■金融政策決定に関する議論
参加メンバーはインフレが依然としてやや高止まりしていることに言及、最新の経済指標が、経済活動が堅調なペースで拡大を続けていること、失業率が低水準で安定していること、労働市場の状況がここ数カ月間の堅調な推移を指摘した。こうした状況下で経済見通しに対する不確実性が高まっている中、すべての参加メンバーは、FF金利の目標レンジを4.25~4.50%に維持することが適切であると判断した。
金融政策の見通しについて参加メンバーは、経済見通しに対するさまざまな連邦政府政策の効果に関する不確実性は高く、慎重なアプローチを取ることが適切であると述べた。参加メンバーの大半は、その不確実性を強調する中で、さまざまな要因から生じるインフレ圧力効果の持続性は、予想よりも高い可能性があると指摘した。経済成長と労働市場は依然として堅調であり、現在の金融政策は引締め状態にあるため、インフレと経済活動の見通しがより明確になるまで待つことが、当委員会の適切な立場であると判断した。参加メンバーは、政策決定はあらかじめ決められたコース上にあるわけではなく、経済の推移、経済見通し、リスクのバランスを考慮して決定されると指摘した。
参加メンバーは、バランスシートの縮小はこれまで順調に進んできたと評価、FRB証券保有高を減らすプロセスを継続することが適切であると判断した。ほとんどの参加メンバーは、今回の会合で償還ペースを減速させる案を支持した。大半の参加メンバーは、償還ペースの減速は金融政策スタンスの変更を意味するものではなく、バランスシートの長期的な推移に影響を与えるものでもなく、2024年5月の会合で決定された減速の自然な流れであり、2022年に発表されたバランスシート縮小に関する当委員会の原則および計画に沿ったものであることを明確に伝えることの重要性を指摘した。
(H・N)
[ゴールデンチャート社]
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FOMC議事録(原文、FRB)