不確実性が高まり、待ちの体制を整える=パウエル議長FOMC記者会見スピーチ 2025年03月20日 09時59分

 連邦準備制度理事会(FRB)パウエル議長は、3月19日、連邦公開市場委員会(FOMC)直後の記者会見冒頭のスピーチで、トランプ新政権の政策変更に関して、「新政権は貿易、移民、財政政策、規制という4つの分野において重要な政策変更を実施する過程にあります。経済や金融政策の方向性に影響を与えるのは、これらの政策変更の総合的な効果です。これらの分野の一部、特に貿易政策では最近いくつかの進展がありましたが、変更内容や経済見通しへの影響に関する不確実性は依然として高い状況です」と述べたうえで、今後の金融政策に関して「FF金利の目標レンジに対する追加的な調整の規模やタイミングを検討するにあたり、当委員会は入ってくるデータ、変化する見通し、リスクのバランスを評価します。政策スタンスを急いで調整する必要はなく、より明確になるまで待つ体制は整っています」と慎重な姿勢を示しました。

パウエル議長FOMC記者会見冒頭スピーチ
             [日本語訳 ゴールデンチャート社] 2025年月3月20日

 私たちは、米国国民のために「最大雇用」と安定した物価という2つの責務の目標を達成することに引き続き全力を注いでいます。米国経済は全体として堅調であり、過去2年間で目標に向けて著しい進展を遂げました。 労働市場は堅固であり、インフレは依然としてやや高止まりしているものの、長期的な目標である2%に近づいています。

 こうした目標を支えるため、本日、連邦公開市場委員会(FOMC)は、政策金利を据え置くことを決定しました。また、バランスシートの規模縮小ペースを減速させるという技術的な決定も行いました。

 昨年第4四半期の経済活動は堅調なペースで拡大を続け、GDPは2.3%増加しました。しかし、最新の経済指標は、2024年後半に急速な伸びを見せた個人消費が減速していることを示しています。家計や企業の調査からは、経済見通しに対する不確実性が高まっていることが示されています。経済予測については、参加メンバーの中央値では、今年のGDP成長率は1.7%と予測されており、12月の予測よりもやや低くなっています。また、今後2年間は2%をやや下回る水準で推移すると予測されています。

 労働市場は依然として堅調です。過去3カ月間の給与所得者の増加数は月平均20万人でした。失業率は4.1%と依然として低く、過去1年間は狭い範囲の変動で推移しています。求人数と労働者数の差はここ数カ月安定しています。賃金はインフレ率よりも速いペースで上昇しており、パンデミックからの回復期よりも持続性のあるペースで上昇しています。全体として、幅広い経済指標が労働市場の状況はおおむね均衡していることを示唆しています。労働市場は著しいインフレ圧力の原因とはなっていません。SEP(*1)における失業率の中央値予測は、今年末で4.4%、今後2年間で4.3%となっています。

(*1)SEP ; Summary of Economic Projectionsの略。FOMCメンバーが提示する今後の主要マクロ経済変数の予測値。

 過去2年間でインフレは大幅に緩和されましたが、2%という長期的な目標と比較すると依然としてやや高い水準にあります。消費者物価指数(CPI)やその他のデータに基づく推計によると、2月までの12カ月間における個人消費支出(PCE)物価指数は2.5%上昇し、変動の激しい食料品とエネルギーを除いたコアPCE物価指数は2.8%上昇しました。 インフレ期待に関するいくつかの短期的な指標は最近上昇しています。 これは市場ベースおよび調査ベースの指標の両方で確認されており、消費者および企業を対象とした調査回答者からは、関税が上昇要因として挙げられています。しかし、向こう1年余りを超えたところでは、ほとんどの長期的な期待の指標は、依然としてFRBの2%インフレ目標と一致しています。PCE全体のインフレ率に関するSEPの予測中央値は、今年が2.7%、来年が2.2%となっており、12月の予測を若干上回っています。2027年には、予測中央値はFRBの2%目標に一致しています。 

 FRBの金融政策は、米国国民のために「最大雇用」と物価安定という2つの目標を達成することを目的としています。本日の会合において、当委員会はフェデラル・ファンド金利(FF金利)の目標範囲を4.25~4.50%に維持することを決定しました。今後を見据えると、新政権は貿易、移民、財政政策、規制という4つの分野において重要な政策変更を実施する過程にあります。経済や金融政策の方向性に影響を与えるのは、これらの政策変更の総合的な効果です。これらの分野の一部、特に貿易政策では最近いくつかの進展がありましたが、変更内容や経済見通しへの影響に関する不確実性は依然として高い状況です。今後入ってくる情報を分析するにあたり、見通しが明らかになるにつれ、ノイズの中からシグナルを分離することに重点を置いています。声明文で述べたように、FF金利の目標レンジに対する追加的な調整の規模やタイミングを検討するにあたり、当委員会は入ってくるデータ、変化する見通し、リスクのバランスを評価します。政策スタンスを急いで調整する必要はなく、より明確になるまで待つ体制は整っています。

 FOMC参加メンバーは、今後起こりうるシナリオとして各自が判断する内容に基づき、SEPの中で金利の適切な水準に関する各自の見解を提示しました。かなりの不確実性を考慮すると、現時点ではこれは、確かに難しい作業です。参加メンバーの中央値予測では、FF金利の適切な水準は、今年末には3.9%となり、来年末には3.4%になると見込まれています。これは12月時点から変更されていません。こうした個々の予測は常に不確実性を伴うものですが、私が述べたように現在の不確実性は異常に高まっています。そしてもちろん、これらの予測は当委員会の計画や決定ではありません。

 金融政策はあらかじめ決められたコースをたどるものではありません。経済が発展するにつれ、私たちは「最大雇用」と物価安定という目標を最も効果的に促進する形で政策スタンスを調整していきます。もし経済が堅調を維持し、インフレ率が持続的に2%に向かって進まない場合には、より長期にわたって政策の抑制を維持することができます。労働市場が予想外に弱含んだり、インフレ率が予想以上に急速に低下した場合には、それに応じて金融政策を緩和することができます。現在の政策スタンスは、私たちが直面するリスクや不確実性に対処する上で適切に位置づけられています。

 また、本日の会合では、バランスシートの縮小ペースを減速させることも決定しました。バランスシートの圧縮を開始して以来、FRBが保有する証券は2兆ドル以上減少しました。市場の経済指標は依然として準備高が潤沢であることを示していますが、短期金融市場では逼迫の兆候がいくつか見られます。4月より財務省証券の償還に対する月間上限額を250億ドルから50億ドルに引き下げます。当委員会が主に米国債を長期的に保有するという意向に沿って、政府機関債の保有上限は据え置きます。この措置は、金融政策のスタンスを変更するものではなく、中期的にバランスシートの規模に影響を与えるものでもありません。

 また、当委員会は金融政策の枠組みに関する5年ごとの見直しの一環として、議論を継続しました。今回の会合では、労働市場の動態と「最大雇用」の目標に焦点を当てました。これまでにも述べてきたように、この見直しには、幅広い関係者を巻き込んだアウトリーチ活動(*2)や公開イベントが含まれます。これには、全米各地で開催される「Fed Listens」イベントや5月に開催される研究会議などが含まれます。このプロセス全体を通じて、私たちは新しいアイデアや批判的なフィードバックを受け入れ、過去5年間の教訓を踏まえて結論を導き出します。見直し作業は夏が終わる頃までに完了する予定です。

(*2)アウトリーチ活動とは、企業や組織が市場や顧客に積極的にアプローチし、コミュニケーションをとるための活動をいう

 FRBには、金融政策に関して「最大雇用」と物価の安定という2つの目標が課せられています。私たちは引き続き「最大雇用」を支援し、持続可能なインフレ率を2%の目標に近づけ、長期的なインフレ期待を適切に維持することに全力を尽くします。これらの目標を達成することの成功は、すべてのアメリカ人に影響します。私たちの行動が、全米のコミュニティ、家族、企業に影響を与えることを理解しています。私たちの行動はすべて、公共の使命に奉仕するものです。FRBは「最大雇用」と物価安定の目標を達成するために全力を尽くします。

[ゴールデンチャート社]

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FOMC記者会見議事録(FRB原文)