インフレ2%へ向けての確信が高まっていない=FOMC議事録 2024年05月23日 11時40分

[ゴールデンチャート社] 2024年5月23日

 米連邦準備理事会(FRB)は4月30日、5月1日に開かれた連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録を公開しました。今回の会合でFOMCは、前回の会合に引き続きフェデラルファンド金利(FF金利)を5.25~5.50%に据え置く決定をしました。政策金利を据え置いた理由として、ここ数カ月、インフレが目標の2%に向けた進展が見られないこと、堅調な経済が続いていることを示すデータが示されていることを挙げています。ディスインフレに向けてのプロセスには予想外に時間がかかるとの想定も示されています。

FOMC議事録(要旨) 

■米国経済の現状と見通しに関する議論

【インフレ】

 参加メンバーは、インフレは過去1年間で緩和してきたものの、ここ数カ月は当委員会の目標である2%に向けた進展が見られないと指摘した。最近の月次データでは、財・サービス価格インフレの構成要素において大幅な上昇を示している。特に、住宅を除くコア・サービスのインフレ率は第1四半期に昨年第4四半期比で上昇し、コア財価格は数カ月ぶりに3カ月連続で上昇した。加えて、住宅サービスインフレは、過去1年間の市場賃料の上昇幅が小さいことから予想されていたよりも鈍化していた。参加メンバーの中には、1月のPCEインフレ率の大幅な上昇には、異常に大きな季節的パターンが寄与している可能性があると指摘する者もいた。しかし、一部の参加メンバーは、最近のインフレ率の上昇は比較的広範囲に及んでおり、それゆえ過度に割り引くべきでないと強調した。

 参加メンバーは総じて、インフレ・リスクに引き続き高い関心を寄せているとコメントした。また、インフレ率の上昇が家計、特に食料、住宅、交通などの必需品のコスト上昇に対応できない家計の購買力を引き続き損なうことに懸念を示している。

 参加メンバーは、インフレ率は中期的に2%に戻ると予想している。しかし、最近のデータからは、2%に向けて進展していることへの信頼感は高まっておらず、それゆえ、ディスインフレ・プロセスには以前考えられていたよりも時間がかかる可能性が高いことが示唆された。参加メンバーは、適切な金融引締め政策と合わせて、インフレ率が当委員会の目標に戻るのを支援するいくつかの要因について議論した。住宅サービス価格のインフレがさらに低下する必要があること、市場賃料の再加速がこの影響を弱める可能性、生産性上昇の継続的な上昇が持続、短期的な期待インフレ率はここ数カ月で上昇したものの中長期的な期待インフレ率は良好に据え置かれていること、総需要の伸びがここ数四半期の力強いペースから鈍化する必要性、などについて議論した。

【労働市場】

 労働市場の需給は、緩やかではあるが、依然として均衡が取れていると評価した。とはいえ、最近の堅調な雇用者数の伸びと低い失業率を背景に、全般的にタイトな状況が続いているとみられる。参加メンバーは、求人数の減少、退職率の低下、失業者数に対する求人数の比率の低下など、労働市場の逼迫感の緩和を示唆する様々な指標を挙げた。多くの参加メンバーは、過去1年間、労働力率の上昇と移民受け入れによって労働供給が促進されたと指摘した。

【米国経済】

 参加メンバーは、最近の指標が経済活動が堅調なペースで拡大を続けていることを示唆していることに注目した。第1四半期の実質GDP成長率は昨年後半に比べ緩やかになったが、PDFP成長率(*1)は力強いペースを維持した。高金利状態が第1四半期の耐久消費財購入の足かせとなり、企業の固定投資の伸びは小幅にとどまった。一方で高金利にもかかわらず、第1四半期の住宅投資は、緩やかだった昨年下半期のペースを上回る力強い伸びを示した。最近のPDFPデータは引き続き力強い経済モメンタムを示唆したが、参加メンバーは概して、このデータがさらなる経済活動の加速を示しているとは解釈せず、GDP成長率は力強かった昨年のペースから鈍化すると予想した。多くの参加メンバーは、高い移民率が労働供給を押し上げ、総需要に貢献することで経済活動を支える可能性があるとコメントした。生産性の伸びが経済見通しに重要な影響を与えるとの指摘があった。

(*1)PDFP成長率(Private Domestic Final Purchases) ; 民間最終消費成長率。

【家計部門】

 家計部門について参加メンバーは、低失業率と堅調な所得増に支えられ、第1四半期の個人消費は底堅く推移したとの見方を示した。多くの参加メンバーは、労働所得の伸びが鈍化し、多くの家計の財政状況が弱まると予想されることから、今年の消費の伸びは緩やかになる可能性が高いと判断した。多くの参加メンバーは、低・中所得世帯の家計がますます圧迫されている兆候を指摘し、参加メンバーはこれを消費の見通しに対する下振れリスクと見ている。住宅費の高騰が低所得世帯の経済的負担を高めている一方で、総消費の大部分を占める富裕層世帯の金融情勢は良好で、最近の株式や住宅価格の上昇により多額の富が増加していると指摘した。

【企業活動】

 多くの地区で企業関係者から経済活動のペースは安定しているとの報告があった。参加メンバーの中には、政府支出 が各地区の事業拡大を支えていると指摘する者もいた。企業の堅調な見通しと一致して、参加メンバーの何人かは、生産能力を高める技術やビジネス・プロセスの改善への投資が増加していることを報告した。農業部門では、商品価格の下落が農家の所得を圧迫していると指摘があった。

【経済見通し】

 経済見通しをめぐるリスクと不確実性について議論した。参加者は概してインフレの持続性についての不確実性を指摘し、最近のデータではインフレが持続的に2%に向かっているという確信が高まっていないことに同意した。地政学的な出来事やその他の要因によって、供給のボトルネックが深刻化したり、輸送コストが上昇したりする可能性を指摘する意見もあった。地政学的事件が商品価格の上昇をもたらす可能性もインフレの上振れリスクとみなされた。多くの参加メンバーは、現在の金融引締め状態に関する不確実性と、そうした状態が総需要とインフレに対する影響度として不十分であることのリスクを指摘した。複数の参加メンバーは、効率性の向上と技術革新が生産性の伸びを持続的に高める可能性があり、インフレ率を上昇させることなく経済成長を加速させることができるかもしれないとコメントした。参加メンバーはまた、中国の経済成長鈍化、国内CRE(*2)市場の状況悪化、金融環境の急激な引き締めなど、経済活動の下振れリスクについて言及した。

(*2)CRE(Corporate Real Estate)は、企業不動産のことで、 企業が事業を行うために保有(賃貸借)をしている土地や建物をさす。

【金融システム安定化】

 金融の安定性に関する議論で参加メンバーは、監視が必要だと評価されている金融システムの脆弱性を指摘した。参加メンバーは、長期利回りの上昇に起因する資産の含み損、CREへの高いエクスポージャー、一部の銀行による無保険預金への大きな依存、サイバー脅威、銀行間の金融相互接続の拡大など、銀行セクターから生じる様々なリスクについて議論した。参加メンバーは総じて、高金利が金融システムの脆弱性を助長する可能性があると指摘、その中で、多くの参加メンバーは、金融政策は雇用とインフレの見通しによって導かれるべきであり、金融安定リスクに対処するためには他の手段を第一義とすべきであると強調した。

■金融政策決定の関する議論

 金融政策の検討において、参加メンバー全員が、現在の経済状況および雇用とインフレの見通しへの影響および、リスクバランスに鑑みフェデラルファンド金利の目標レンジを5.25〜5.50%に維持することが適切であると判断した。参加メンバーは、今回の会合でフェデラルファンド金利の現在の目標レンジを維持したのは、堅調な経済成長が続いていることを示す経済データが報告されていること、当委員会の2%のインフレ目標に向けた進展がここ数カ月で見られないことを根拠としたものである。

 FRBが保有する証券の削減プロセスについての議論の中で、参加メンバーは、バランスシートの縮小はスムーズに進んだと判断した。ほぼすべての参加メンバーは、6月に財務省証券の月間償還上限額を600億ドルから250億ドルに引き下げ、政府系債と政府系不動産担保証券(MBS)の月間償還上限額を350億ドルに維持し、350億ドルの上限額を超える元本支払いを財務省証券に再投資することで、FRBの証券保有残高の減少ペースを緩め始める決定への支持を表明した。参加メンバーは、資金流出ペースの減速が金融政策のスタンスに影響を与えるものではないこと、参加メンバーの何人かは、バランスシートの流出ペースを遅くしてもバランスシートの縮小幅が最終的に小さくなるわけではないことを強調した。参加メンバーは総じて、バランスシートの流出が続く中、準備状況の指標をモニターし続けることが重要であると評価した。

 金融政策の見通しに影響を与えうるリスク管理上の考慮事項について議論する中で、参加メンバーは概して、当委員会の雇用とインフレの目標達成に対するリスクは、この1年でより良いバランスに向かっていると評価した。参加メンバーは引き続きインフレ・リスクに強い関心を示し、経済見通しに関する不確実性に言及した。多くの参加メンバーは、引き締め度合いについて不確実性を指摘した。これらの参加メンバーは、高金利の効果が過去よりも小さくなっている可能性、長期的なの均衡利子率(*3)が以前考えられていたよりも高くなっている可能性、潜在的な生産水準が推定よりも低くなっている可能性などから、この不確実性が生じていると考えた。しかし、参加メンバーは、FRBの金融政策は変化する経済状況や見通しに対するリスクに対応するために依然として適正なポジションを確保していると評価した。参加メンバーは、インフレ率が持続的に2%へ向かう兆しを見せない場合、現在の引き締め状態を長く維持することや、労働市場の状況が予想外に弱まった場合の金融政策について議論した。様々な参加メンバーが、インフレに対するリスクがそのような行動が適切となるような形で顕在化した場合、さらに政策を引き締める意思があることに言及した。

(*3)均衡利子率(equilibrium interest rates) ; 総需要と総供給が均衡するよう調整されたときに決まる利子率。

(H・N)

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■関連情報(外部サイト)
FOMC議事録(原文、FRB)