インフレ低下、予想より時間がかかりそう=パウエル議長FOMC記者会見スピーチ 2024年05月02日 10時10分

 連邦準備制度理事会(FRB)パウエル議長は5月1日、連邦公開市場委員会(FOMC)直後の記者会見冒頭のスピーチで、「インフレ率が持続的に2%に向かっているという確信が深まるまで、FF金利の目標レンジを引き下げることは適切ではないと考えています。今年、これまでのデータからはそのような確信が得られていません。特にインフレ率は予想を上回っています。確信が得られるデータを得るには、これまでの予想よりも時間がかかりそうです」と、フェデラルファンド金利を据え置きとした理由を述べました。利下げ開始時期や今年中の利上げ回数についての言及はありませんでした。

 今回の会合では、バランスシートの縮小ペースを緩める決定をしました。6月から米国債の償還上限を現在の月600億ドルから月250億ドルに引き下げることが決まりました。

パウエル議長FOMC記者会見冒頭スピーチ

[日本語訳 ゴールデンチャート社] 2024年5月2日

 私たちは、これまでと同様に米国民のために「最大雇用」と安定した物価を促進するという二つの使命に焦点を合わせています。米国経済は、この二重の使命としての目標に向かってかなりの進歩を遂げています。インフレはこの1年で大幅に緩和し、労働市場は堅調を維持しています。しかし、インフレ率はまだ高すぎ、インフレ率のさらなる低下は定かではなく、先行きは不透明です。私たちは、インフレ率を目標である2%に戻すことに全力を尽くしています。物価の安定を回復させることは、すべての人に恩恵をもたらす持続可能な強い労働市場を実現するために不可欠です。

 本日、FOMCは政策金利の据え置きと、ペースは緩やかながら保有証券の削減を継続することを決定しました。私たちの金融引締め政策は、経済活動とインフレに下押し圧力をかけており、雇用とインフレの目標達成に向けたリスクは、この1年でバランス良い状態に向かっています。しかし、ここ数カ月のインフレ率は、目標である2%へのさらなる進展が見られず、私たちは引き続きインフレリスクに細心の注意を払っています。

 最近の経済指標は、経済活動が引き続き堅調なペースで拡大していることを示唆しています。第1四半期のGDP成長率は前年同期の3.4%から1.6%に鈍化しましたが、在庫投資、政府支出、純輸出を除いた民間国内最終購買額は3.1.%となり、2023年下半期並みの高い伸びとなりました。個人消費は、高金利が住宅や設備投資を圧迫しているにもかかわらず、過去数四半期にわたって堅調に推移しています。供給環境の改善が、過去1年間の底堅い需要と好調な米国経済を支えてきました。

 労働市場は依然として比較的逼迫していますが、需給バランスは改善しています。第1四半期の雇用者数は月平均27万6000人増加し、失業率は3.83%と低水準を維持しています。過去1年間の力強い雇用創出は、25~54 歳の労働参加率の上昇と移民の継続的な増加を反映して労働者供給の上昇を伴ってきました。名目賃金の伸びはこの1年で鈍化し、雇用数と労働者数のギャップは縮小しましたが、労働需要は依然として労働者の供給を上回っています。

 インフレ率は過去1年間で著しく低下しましたが、長期目標である2%を依然上回っています。3月までの12カ月間、PCE物価指数は2.7%上昇し、変動の激しい食品とエネルギーのカテゴリーを除いたコアPCE物価指数は2.8%上昇しました。今年に入ってから発表されたインフレ率は予想を上回りました。短期的なインフレ期待を示すいくつかの指標はここ数カ月で上昇しましたが、長期的なインフレ期待は、家計、企業、予測担当者を対象とした広範な調査や金融市場の指標に反映されているように、依然として十分に定着されているようです。

 FRBの金融政策行動は、米国民のために「最大雇用」と安定した物価を促進するというFRBの使命に導かれています。私たちは、高インフレが購買力を低下させ、特に食料、住宅、交通といった必需品・サービスのコスト上昇に対応できない人々に大きな苦難をもたらすことを痛感しています。私たちは、インフレ率を目標の2%に戻すことに重い責任を託されています。

 当委員会は本日の会合で、フェデラル・ファンド金利(FF金利)の目標レンジを5.25~5.50%に維持し、保有有価証券の大幅な削減プロセスを継続することを決定しました。過去1年間、逼迫した労働市場が緩和し、インフレ率が低下したことで、雇用とインフレの目標達成に向けたリスクはバランスの良い状態に向かっています。しかし、景気の先行きは不透明であり、インフレリスクには引き続き注意を払っています。

 私たちは、インフレ率が持続的に2%に向かっているという確信が深まるまで、FF金利の目標レンジを引き下げることは適切ではないと考えています。今年、これまでのデータからはそのような確信が得られていません。先に述べたように、特にインフレ率は予想を上回っています。確信が得られるデータを得るには、これまでの予想よりも時間がかかりそうです。私たちは、FF金利の現在の目標レンジを適切な期間維持する用意があります。また、労働市場の予想外の弱含みにも対応する用意もあります。

 私たちは、金融引締め政策を早急に、あるいは過度に緩和に転向させるのは、インフレに関するこれまでの進展を後退させる可能性があることを知っています。同時に、引締め政策の転向が遅すぎたり少なすぎたりすれば、経済活動や雇用が不当に弱まる可能性があります。FF金利の目標レンジの調整を検討する際には、当委員会は入ってくるデータ、進展する見通し、および、リスクのバランスを注意深く評価します。私たちは引き続き、会合ごとに意思決定を行っていきます。

 本日の会合で当委員会はバランスシートに関して、以前に公表した計画と整合的に保有有価証券の減少ペースを減速させることを決定しました。具体的には、6月1日以降、米国債の償還上限を現在の月600億ドルから月250億ドルに引き下げる予定です。長期的には主に財務省証券を保有するとの当委員会の意向に沿い、政府機関系証券の上限は据え置きます。現在、政府機関系証券の元本支払いは月150億ドル程度であるため、ポートフォリオの流出総額は月400億ドル程度となります。流出ペースを遅らせる決定は、最終的な縮小幅が想定されるよりも減少することを意味するのではなく、縮小ペースを下げて最終的な水準に近づけることを可能にします。資金流出のペースを緩めることは、円滑な移行を確実にし金融市場がストレスを受ける可能性を減らし、それによって、適切な水準としての準備金に達することと整合的でかつ、継続的な保有有価証券の縮小を促進することにつながります。

 私たちは引き続き、インフレ率を目標の2%まで低下させ、長期的なインフレ期待を適切に維持することに全力を尽くします。物価の安定を回復することは、「最大雇用」と安定した物価を長期的に達成するために不可欠です。最後に、私たちは、私たちの行動が全国の地域社会、家族、企業に影響を与えることを理解しています。私たちの行動はすべて、公的使命のために行われるものです。私たちFRBは「最大雇用」と物価安定の目標を達成するために全力を尽くします。

[ゴールデンチャート社]


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■関連情報(外部サイト)
FOMC記者会見議事録(FRB原文、PDF)