直近のインフレ指標は期待外れだった=FOMC議事録 2024年04月11日 11時14分
[ゴールデンチャート社] 2024年4月11日
米連邦準備理事会(FRB)は3月19日、20日に開かれた連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録を公開しました。今回の会合でFOMCは、前回の会合に引き続きフェデラルファンド金利(FF金利)を5.25~5.50%に据え置く決定をしました。この据え置き措置は5回連続となります。
議事録から今回のFOMCはインフレに関する議論を中心に展開されましたが、「ここ数カ月、経済の力強いモメンタムを示す指標とインフレに関する期待外れの指標を勘案し、インフレが持続的に2%に向かうとの確信が深まるまで、FF金利の目標レンジを引き下げることは適切ではない」との見解が示され、これまでの議論を繰り返す結果となりました。
FOMC議事録(要旨)
■米国経済の現状と見通しに関する議論
【インフレ】
インフレに関する議論では、参加メンバーは、コア物価指数と総合物価指数に関する直近の2つの月次測定値が予想より上昇したにもものの、当委員会のインフレ目標2%に向けて過去1年間で大きな前進があったとの見解を示しました。インフレ見通しとしては、インフレ率は中期的には2%に戻ると予想している。参加メンバーは、インフレ率の上昇が家計、特に食料、住宅、交通などの必需品のコスト上昇に対応できない家計に引き続き打撃を与えることを懸念している。一部の参加メンバーは、労働市場がより良いバランスに移行し、賃金の伸びがさらに緩やかになるにつれて、コア非住宅サービス・インフレ率(*1)は低下すると予想。新規賃貸の家賃上昇率の測定値がいつ、どの程度低下すれば、このカテゴリーのインフレ率に反映されるのか不透明であるとコメントがあった。
(*1)コア非住宅サービス・インフレ率 ; 住宅を除くコアサービスのインフレ率
【米国経済】
参加メンバーは、経済成長は昨年の力強いペースから減速すると予想。家計部門に関しては、参加メンバーの多くが最近の小売売上高が軟調であるとコメントしたものの、消費支出は概して堅調であると指摘。参加メンバーの何人かは、堅調な労働市場、継続的な賃金上昇、概して健全な家計部門のバランスシートが、引き続き消費を支える可能性が高いと指摘した。参加メンバーは、旺盛な住宅需要と手頃な価格の住宅供給が限られているにもかかわらずデベロッパーの資金調達コストが依然高騰しているなか、住宅建設のペースについて様々な報告があることに言及。一部の参加メンバーは、個人消費支出の伸びを後押ししていると見られる移民の増加が、住宅需要にも拍車をかけている可能性を指摘。多くの参加メンバーは、クレジットカード残高の増加や、後払い決済プログラムの利用拡大、消費者ローンの延滞率の上昇を、一部の低・中所得世帯の家計が圧迫されている証左であると指摘した。
【企業活動】
企業関係者からの報告によると、一部の業種や地区では先行きに対する楽観的な見方が増加した一方、他の2、3の地区では、経済活動のペースは堅調または安定している。一部の参加メンバーは、設備投資や住宅投資などのセクターを抑制している要因として、金融引締めを挙げたが、複数の参加メンバーは、技術やビジネス・プロセスの改善への投資が増加、生産能力が向上し、企業が労働市場逼迫の影響を軽減するのに役立っているとの報告があったと指摘した。製造業活動は安定していると評価された。
【労働市場】
労働市場の需給バランスは引き続き改善しているとの評価があり、最近の雇用者数の堅調な伸びと失業率の低さが指摘された。求人数の減少、退職率の低下、失業者に対する求人数の比率の低下など、労働市場の状況緩和を示唆する様々な要因が挙げられている。参加メンバーの中には、企業との接触なかで、労働者の雇用や雇用維持の難しさが軽減されたと報告、労働需給のバランスが改善したことが、名目賃金上昇圧力の緩和につながったと指摘した。とはいえ、一部の参加メンバーは、医療分野や都市部以外の地域など、労働市場の一部が依然として非常にタイトであると指摘した。ほとんどの参加メンバーは、過去1年間、労働力人口の増加と移民によって労働供給が押し上げられたと指摘した。さらに、失業率がほぼ横ばいで推移し賃金上昇圧力が緩和しているにもかかわらず雇用が増加しているのは、ここ数年で移民が増加し、労働供給が全体的に増加しているためだとの見方を示した。
【経済見通し】
経済見通しをめぐる議論では、参加メンバーは総じて、高インフレの持続に対する不確実性を指摘し、最近のデータではインフレ率が持続的に2%まで低下しているとの確信が高まっていないとの見方を示した。一部の参加メンバーは、地政学的リスクにより供給ボトルネックが深刻化したり、輸送コストが上昇したりして、物価上昇圧力が高まる可能性を指摘。地政学的な出来事や国内需要の急増がエネルギー価格の上昇をもたらす可能性も、インフレの上方リスクと見なされた。一部の参加メンバーは、金融引締め状態の不確実性と、望ましい引締め状態よりも緩やかになるまたは、緩やかになる可能性を考慮された場合、その結果として総需要に勢いが増し、インフレに上昇圧力がかかる可能性があると指摘した。複数の参加メンバーは、効率性の向上と技術革新は生産性の伸びを高める可能性があり、インフレ率を上昇させることなく経済成長を加速させる可能性があるとコメントした。また、参加メンバーは、中国の経済成長鈍化、国内CRE市場(*2)の状況悪化、銀行セクターのストレス再燃の可能性、レイオフの増加により失業率が相対的に急上昇する可能性など、経済活動の下振れリスクについても言及しました。参加メンバーの多くは、最近の移民の動向が労働供給、総需要、経済活動全体の推移にどのような影響を与えるかを評価するのは難しいと指摘した。
(*2)CRE(Corporate Real Estate)は、企業不動産のことで、 企業が事業を行うために保有(賃貸借)をしている土地や建物をさす。
■金融政策決定に関する議論
今回のFOMCでは、参加メンバー全員が、現在の経済状況、経済活動とインフレの見通し、リスクのバランスに照らしてフェデラルファンド金利(FF金利)の目標レンジを5.25〜5.50%に維持することが適切と判断した。また、以前に発表された「連邦準備制度理事会(FRB)のバランスシート縮小計画」に記載されているように、FRBの有価証券保有高を削減するプロセスを継続することが適切であることに同意した。参加メンバーは、今回の会合でFF金利の現在の目標レンジを維持することは、インフレ率を2%の目標に戻し、長期的なインフレ期待を良好に維持するための支援となるとコメントした。
政策見通しに関する議論では、参加メンバーは、政策金利は金融引締めサイクルのピークに達している可能性が高いと判断。この見方を裏付けるように、参加メンバーは、一般論としてディスインフレ(*3)のプロセスがやや不均一になると予想される道筋に沿って動いていることに言及した。また、当委員会の金融政策と供給環境の継続的な改善が、需給バランスを改善させる要因であることを指摘した。参加メンバーは、ここ数カ月、経済の力強いモメンタムを示す指標とインフレに関する期待外れの指標を勘案し、インフレが持続的に2%に向かうとの確信が深まるまで、FF金利の目標レンジを引き下げることは適切ではないとの見解を示した。参加メンバーは、今後の会合でFF金利の目標レンジの調整を検討する際には、入ってくるデータ、進展する見通し、リスクのバランスを注意深く評価すると発言。参加メンバーは、金融政策を策定する際のデータに依存した当委員会のアプローチと、「最大雇用」と物価安定の二元的な目標達成への強いコミットメントを明確に伝え続けることの重要性を確認した。
(*3)ディスインフレ ; インフレーションからは抜けたが、デフレーションになっていない状態で 物価の上昇率(インフレ率)が低下していく状態のこと。
金融政策見通しに影響を与えうるリスク管理上の考慮事項について議論する中で、参加メンバーは概して、当委員会の雇用とインフレの目標達成に対するリスクは、バランス良い状態に移行しつつあると判断している。経済活動や雇用を不適切に弱める可能性のある金融引締めの維持が長すぎるリスクと、金融緩和への移行が早すぎるリスクを比較検討することが重要だと指摘した。後者のリスクについて、参加メンバーは、インフレ率が2%に向けて持続的に低下しているかどうかを判断するためには、入ってくるデータを注意深く評価することの重要性を強調しました。参加メンバーは、経済活動、労働市場、インフレに関する見通しに関連する様々な不確実性の要因に言及し、ディスインフレのプロセスが鈍化した場合に現在の引締め状態をより長く維持する可能性や、労働市場の状況が予想外に弱まった場合に金融政策の抑制を弱める可能性など、変化する経済状況や見通しに対するリスクに対応するための十分な態勢を維持していくことに同意した。
(H・N)
[ゴールデン・チャート社]
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■関連情報(外部サイト)
FOMC議事録(原文、FRB)