高金利状態をしばらく維持する=FOMC議事録 2023年11月22日 10時11分

[ゴールデンチャート社] 2023年11月22 日

 米連邦準備理事会(FRB)は10月31日、11月1日に開かれた連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録を公開しました。今回の会合でFOMCは、前回の会合に引き続きフェデラルファンド金利(FF金利)を5.25~5.50%に据え置く決定をしました。

 今後の利上げに関しては、「FOMCのインフレ目標に向けた進展が不十分であることを示す情報が入れば金融引締めに転じる」との表現に留まりました。現状の高金利状態をいつまで維持するかについての議論はなく、「インフレ率が当委員会の目標に向かって継続的に低下することが明らかになるまでしばらくの間、金融引締め状態を維持することが適切」との常套句を繰り返した形となっています。次回のFOMCは12月12日、13日(現地時間)に開催予定。12月の雇用統計、消費者物価指数の発表が注目されます。

FOMC議事録(要旨) 

■米国経済の現状と見通しに関する議論

【米国経済の現状】

 第3四半期の実質GDPは、個人消費の急増に後押しされ予想外に力強いペースで拡大したが、現在の金融引締め政策と供給状況が正常化した結果、総需要と総供給のバランスは改善している。労働市場の状況は依然としてタイトであるものの、最近の労働供給の増加もあり、年初から緩和が続いている。現状は金融引締め政策の状態であり、経済活動とインフレに下方圧力をかけている。加えて、金融情勢はここ数カ月で大幅に引き締まっている。インフレ率は過去1年間で緩やかになったものの、現在のインフレ率は依然として容認できないほど高く、当委員会の長期目標である2%を大幅に上回っている。参加メンバーは、2%への道筋を明確に示していると確信するには、さらなる証拠が必要であると強調、引き続き、実質GDPの潜在成長率を下回る成長と労働市場環境の一層の軟化が、インフレ圧力を十分に低下させ、インフレ率を長期的に2%に戻すために必要であろうとの見方を示した。

【家計部門】

 家計部門に関する議論では、堅調な労働市場と堅調な家計に支えられた個人消費データが、再び上振れしたことに驚いたとの指摘があった。とはいえ、食料品やその他の必需品の価格高騰や信用状況の厳しさの中で、一部の家計、特に低・中所得層の家計がますます圧迫されているとの指摘もあった。

【企業部門】

 第3四半期の企業固定投資は横ばいとなったが、参加メンバーは業種や地区によって異なるとの見方を示した。企業は労働者の雇用および雇用維持能力の向上し、サプライチェーンの改善、投入コスト圧力の低下などの恩恵を受けているとの指摘もあった。コスト上昇を顧客に転嫁するのが容易でないこと、全米自動車労組のストライキが明らかに収束が不確実性を低下させること、金利上昇がビジネスに影響を及ぼしている地区・企業が増えていること、あるいは借入コストの上昇や銀行融資条件の厳格化が投資計画を削減あるいは延期する企業が増えていること、金融・信用状況の厳しさは中小企業にとって特に厳しいものであると指摘もあった。エネルギーセクターでは、イスラエルとハマス間の武力紛争が始まった当初はエネルギー市場が大きく変動していたものの、現在は落ち着いているとの意見があった。

【労働市場】

 労働市場は引き続きタイトであり、9月の雇用者数の伸びは予想外に力強く、失業率は低水準を維持している。労働の供給と需要はより良いバランス状態になりつつあるとの評価があった。労働市場環境の緩やかなリバランスと一致して、名目賃金の上昇ペースは引き続き緩やかであるとのコメントがあったが、一方で名目賃金は、生産性上昇のトレンドに関する現在の推定値を踏まえると、当委員会のインフレ目標2%の長期的な達成および、インフレ目標と整合的と評価される水準を上回るペースで上昇しているとの指摘があった。

【インフレ】

 インフレ率は昨年半ば以降、緩やかな上昇を続けていることを確認した。コアPCE物価指数の6カ月間および12カ月間の変化率は、9月の月次測定値が良好でなかったものの、ここ数カ月でいくぶん低下した。ここ数カ月間のコアPCE物価指数の軟化と住宅サービスでの継続的な漸減が指摘された。住宅を除くコア・サービスのインフレの低下は限られた進展しかなかったとの指摘もあった。参加メンバーは、長期的なインフレ期待は依然として十分に定着していると指摘、これまでの緩やかさにもかかわらず、インフレは当委員会の2%の長期目標を大幅に上回っており、インフレの上昇が企業や家計、特に低所得世帯に引き続き悪影響を与えていると指摘。参加メンバーは、インフレが長期的に2%に戻る方向にあると確信するには、インフレ圧力が和らいでいることを示すデータがもっと必要であると強調した。

【長期金利】

 ここ数カ月、長期国債利回りが大幅に上昇したことなどから、金融環境が大幅に引き締まったと指摘。国債利回りの上昇は、30年物住宅ローン金利を過去何年もなかった水準まで上昇させ、企業の借入金利の上昇につながった。多くの参加メンバーは、長期債利回りの上昇は主に、あるいは実質的に国債のターム・プレミアムの上昇によってもたらされたことを示唆する様々な指標を観察した。参加メンバーは、長期利回りは変動しやすく、最近の高いレベルが持続されるかは不透明であることを強調、長期利回りの上昇要因が何であれ、金融情勢の継続的な変化が金融政策の行方に影響を及ぼす可能性があり、そのため、市場の動向を注意深く監視し続けることが重要であるとの指摘もあった。

【経済見通しとリスク】

 参加メンバーは総じて、経済見通しを取り巻く不確実性の高さを指摘。経済活動の上振れリスクとして、支出の回復力に富んでいる要因が予想以上に長引く可能性があると指摘。下振れリスクとして政策の引き締めや金融引き締めの累積が家計や企業に与える影響が予想以上に大きくなる可能性、潜在的な政府機関閉鎖による混乱、学生ローンの返済再開が家計支出を予想以上に圧迫する可能性を挙げました。インフレの上振れリスクとして、経済活動の勢いが続くたことでディスインフレの進展が停滞したり、インフレが再加速する可能性を挙げた。中東での武力紛争が拡大は、原油価格への潜在的な影響を通じてインフレの上振れリスクとなるとともに、経済活動の下振れリスクとなるとの見方があった。

【金融セクター】

 金融の安定性に関する議論では、銀行システムは健全で回復力に富んでおり、銀行ストレスは沈静化していると指摘があった。しかし、長期金利の上昇に起因する資産の含み損、一部の銀行による無保険預金への大きな依存、および、銀行における資金調達コストの増加について、監視が必要であるとコメントがあった。一部の銀行や他の金融機関に悪影響を及ぼす可能性のあるCREの評価額の急落に関連するリスクについてもコメントがあった。また、複数の参加メンバーは、銀行がFRBの流動性ファシリティを利用できる態勢を確立し、FRBが金融ストレス時に流動性を供給できる態勢を確保する必要性を強調した。

■金融政策決定の関する議論

 参加メンバーは、インフレ率を当委員会の目標である2%に長期的に戻すためには、金融政策のスタンスを十分な引締め状態に保つことが重要であると判断しました。参加メンバー全員は、当委員会は慎重に政策を進める立場にあり、毎回の会合での政策決定は、入ってくる情報の全体像とそれが経済見通しやリスクバランスに与える影響に基づいて行われることに同意しました。参加メンバーは、当委員会のインフレ目標に向けた進展が不十分であることを示す情報が入れば、金融引締め政策に転じることが適切であると指摘した。参加メンバーは、今後数カ月に発表されるデータが、ディスインフレ・プロセスがどの程度継続しているか、金融・信用環境の引き締めに直面して総需要がどの程度緩やかになっているか、労働市場がバランスのとれた需給状態にどの程度近づいているかを明らかにするのに役立つと想定した。参加メンバーは、当委員会のデータに依存した姿勢と、インフレ率を2%まで低下させるという確固としたコミットメントについて明確に伝えることの重要性を述べた。

 参加メンバー全員は、インフレ率が当委員会の目標に向かって継続的に低下することが明らかになるまでしばらくの間、金融引締め状態を維持することが適切であると判断した。また、FRBのバランスシートを縮小する継続的なプロセスは、マクロ経済目標を達成するための全体的なアプローチの重要な一部であるとの見解を示した。数人の参加メンバーは、当委員会のフェデラル・ファンド・レート目標レンジの引き下げ開始後も、バランスシートの縮小プロセスはしばらく続く可能性があると指摘した。

 将来の政策決定に影響するリスク管理上の留意点について、参加メンバーは概して、金融政策のスタンスが引締め状態にあることから、当委員会の目標達成に対するリスクは二面的になっていると判断した。しかし、インフレ率は依然として当委員会の長期目標を大幅に上回っており、労働市場もタイトな状態が続いていることから、参加メンバーの多くは、依然としてインフレ率の上昇リスクを見ている。こうしたリスクには、総需要と総供給の不均衡が予想以上に長期化するこtでインフレ率の抑制を鈍らせる可能性、地政学的緊張や世界の石油市場から生じるリスク、住宅市場の逼迫がインフレ抑制に与える影響、財価格の下落がより限定的になる可能性などが含まれている。多くの参加メンバーは、経済活動は回復力に富んでおり、労働市場は引き続き堅調であるにもかかわらず、経済活動に対する下振れリスクは残っているとコメントした。こうしたリスクには、金融・信用環境の引き締めが総需要や銀行、企業、家計のバランスシートに及ぼす影響が予想以上に大きくなる可能性、CREセクターの低迷が続くこと、世界の石油市場が混乱する可能性などが含まれている。

(H・N)

[ゴールデンチャート社]


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■関連情報(外部サイト)
FOMC議事録(原文、FRB)