高水準金利をいつまで維持するかが焦点に=FOMC議事録 2023年10月12日 10時07分

[ゴールデンチャート社] 2023年10月12 日

 米連邦準備理事会(FRB)は9月19日、20日に開かれた連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録を公開しました。今回の会合でFOMCは、フェデラルファンド金利(FF金利)を5.25~5.50%に据え置く決定をしました。FFは「現状ピークに達しているか、その近くにある可能性が高いため、焦点は、どの程度引き上げるかからどの程度の期間維持するかにシフトしている」との発言があり、利下げのタイミングが2024年の後半に移っているとの見方が有力となってきました。

FOMC議事録(要旨) 

■米国経済の現状と見通しに関する議論

【経済見通し】
 経済見通しについて参加メンバーは、実質GDPは堅調なペースで拡大しており、予想よりも底堅く推移していると評価したが、実質GDP成長率は当面鈍化するとの見通しも示した。現在の金融引締め政策スタンスは、概ね意図した通り景気を抑制しているように見える。参加メンバーは、インフレ率の現状は受け入れがたいほど高いままであることを強調したが、過去1年間で多少緩やかになったことは認めた。また、インフレ率が当委員会の目標である2%への道を明確に歩んでいると確信するには、さらなる証拠が必要であると指摘した。総需要と総供給のバランスを改善させ、インフレ圧力を十分に低下させ、インフレ率を長期的に2%に戻すには、実質GDPがトレンドを下回る成長と労働市場環境の若干の軟化が必要であろうとの指摘があった。

【家計部門】
 家計部門では、参加メンバーは、堅調な労働市場と全般的に堅調な家計のバランスシートに支えられ、個人消費はかなりの力強さを示し続けていると指摘した。しかし、多くの参加メンバーは、高インフレと貯蓄の減少の中で、一部の家計は圧迫されつつあり、支出を賄うためのクレジットカードへの依存度が高まっていると指摘した。

【企業部門】
 ビジネス・セクターについては、参加メンバーの何人かが状況軟化の兆しがあるものの、堅調な活動が続いていると指摘したが、多くの参加メンバーは、労働者の雇用・維持能力の向上、サプライ・チェーンの機能改善、コスト圧力の低下などから、景況感が改善していると指摘した。自動車労働者のストライキにより、短期的には自動車および部品の生産が減速し、自動車価格に上昇圧力がかかる可能性があるが、こうした影響は一時的なものであろうと予想するコメントがあった。

【労働市場】
 労働市場は逼迫しているが、需給のバランスは改善しつつある。ほとんどの参加メンバーは、求人数の減少、雇用と労働者の格差の縮小、退職率の低下、週平均労働時間のパンデミック前の水準かそれ以下への減少に見られるように、労働需要の様々な指標が緩和していると述べた。

【インフレ】
 参加メンバーは、過去数カ月間に入手したデータでは概ねインフレの鈍化を示唆していると指摘したが、こうした好転があったとしてもインフレ率を2%に低下させるためには、さらなる進展が必要であることを強調した。供給環境が改善するなか、財の価格インフレが軟化していること、住宅サービスインフレが低下しているとの指摘があった。何人かの参加メンバーは、最近のエネルギー価格の上昇にもかかわらず、過去1年間の食料品とエネルギー価格が全体のインフレ低下に寄与したと述べた。しかし、住宅を除くコア・サービス価格では、インフレ削減の大きな進展はまだ見られないとの指摘もあった。参加メンバーは、長期的なインフレ期待は引き続き良好に定着しており、短期的なインフレ期待は高水準から低下していると指摘した。参加メンバーは、最近の良好な進展にもかかわらず、インフレ率は当委員会の長期目標である2%を大幅に上回っており、インフレ率の上昇が企業や家計、特に低所得者世帯に悪影響を与え続けていると指摘、インフレが長期的に2%に戻ることを確信するには、インフレ圧力が和らいでいることを示すデータが必要であると強調した。

【リスクバランス】
 参加メンバーは総じて、経済見通しを取り巻く不確実性は依然として高いと指摘した。不確実性の新たな要因のひとつは自動車労働者のストライキであり、ストライキの激化がインフレの上振れリスクと経済活動の下振れリスクの双方をもたらすとの指摘があった。参加メンバーの大半は、エネルギー価格の上昇がインフレの上振れリスクとなり、最近のディスインフレの一部を帳消しとする可能性や、インフレが予想以上に持続するリスクおよび、経済活動の下振れリスクを指摘した。その中には、国内銀行セクターがさらなる苦境に見舞われた場合、信用状況が予想以上に引き締まる可能性、中国の景気減速が世界経済成長の足かせとなる可能性、米政府機関の閉鎖が長期化した場合、一時的とはいえ経済成長にマイナスの影響を及ぼす可能性などが含まれている。

■金融政策決定の関する議論

  • 参加メンバ―は、経済活動は堅調なペースで拡大しており、回復力に富んでいるとの見解で一致した。労働市場は依然としてタイトな状態だが、雇用の増加は鈍化しており、労働市場の需給バランスが改善する兆しがみられる。家計や企業が直面している信用状況の厳しさが経済への逆風となり、経済活動、雇用、インフレの重荷となる可能性が高いとの指摘があった。しかし、こうした影響の程度は依然不透明である。インフレ率は昨年半ばから緩やかになったものの、当委員会の長期目標である2%を大幅に上回る水準にとどまっており、参加メンバーはこれまでと同様、インフレ率を当委員会の目標値である2%まで低下させるという決意を固めた。

  • このような経済状況の中、金融政策スタンスの大幅な引き締めの累積と、政策が経済活動やインフレに影響を与える時間差を考慮し、ほぼ全ての参加メンバーは、今回の会合でフェデラルファンド金利の目標レンジを5.25~5.50%に維持することが適切と判断した。この金融引締めスタンスを維持することが、当委員会の目標に向けたさらなる進展を支えると同時に、この進展を評価するためのデータを収集する時間を当委員会に与えることになると判断した。すべての参加者は、以前に発表されたFRBのバランスシート縮小計画に記載されているように、FRBの証券保有高を削減するプロセスを継続することが適切であるとの見解で一致した。

  • すべての参加メンバーは、当委員会がインフレ率が目標に向かって持続的に低下していることを確信するまで、暫くの間は金融引締め状態とすべきであることに同意した。何人かの参加メンバーは、インフレ率が当委員会の目標である2%に達するまでの回復ペースが、金融引締めの水準や、いつまで金融引締め政策を維持するかについての見解に影響すると指摘した。また、政策金利がピークに達するか、その近くにある可能性が高いため、焦点は政策金利をどの程度引き上げるかから、金融引締めをどの程度の期間維持するかへとシフトすべきだとのコメントがあった。

  • 参加メンバーは、FRBのバランスシートの規模を縮小する継続的なプロセスは、マクロ経済の目標を達成するための全体的なアプローチの重要な一部であるとの見解を示した。何人かの参加メンバーは、当委員会がフェデラルファンド金利の目標レンジを引き下げ始めた後も、バランスシートの縮小プロセスはしばらく続く可能性があると指摘した。

  • 参加メンバーはこれまでと同様、インフレ率を長期的に当委員会の目標である2%に戻すためには、金融引締めスタンスを十分に保つことが重要だと判断した。参加メンバーの大半は、将来の会合でフェデラルファンド金利の目標値をあと1回引き上げることが適切であろうと判断したが、一部の参加メンバーは、これ以上の引き上げは正当化されないだろうと判断した。すべての参加メンバーは、当委員会は慎重に金融政策を進めるべき立場にあり、すべての会合での政策決定は、入ってくる情報の全体とそれが経済見通しとリスクバランスに与える影響に基づいて行われることに同意した。今後数カ月に届くデータが、ディスインフレ・プロセスがどの程度続いているのか、労働市場が需給バランスにどの程度近づいているのかを明らかにするのに役立つと期待をもった。

  • 金融政策決定に影響するリスクついての議論では、インフレ率は依然として当委員会の長期目標を大幅に上回っており、労働市場もタイトなままであることから、ほとんどの参加メンバーはインフレ率の上昇リスクを引き続き見ていた。総需要と総供給の不均衡が予想以上に長期化すること、世界の原油市場から生じるリスク、食料品価格の上昇ショックの可能性、堅調な住宅市場が家賃のインフレに与える影響、財価格の下落がより限定的になる可能性などが含まれた。多くの参加メンバーは、経済活動が底堅く、労働市場が堅調を維持しているにもかかわらず、経済活動に対する下振れリスクと失業率に対する上振れリスクが依然として存在するとコメントした。こうしたリスクには、金融引き締めによるマクロ経済への影響が予想以上に遅れていること、労働組合のストライキの影響、世界的な成長の鈍化、CREセクター(企業不動産)の低迷の継続などが含まれる。参加メンバーは総じて、引き締め過ぎのリスクと引き締め不足のリスクのバランスを取ることが重要だと指摘した。

(H・N)

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■関連情報(外部サイト)
FOMC議事録(原文、FRB)