象徴企業、最後まで政治利用=USスチール買収翻弄―米大統領 2025年06月19日 18時23分

【ワシントン時事】トランプ米大統領は、日本製鉄による老舗名門企業USスチールの買収を最終局面まで政治的に利用し、翻弄(ほんろう)した。来年秋の中間選挙を見据え、日鉄による「完全子会社化」といった文言は徹底的に封印し、USスチールへの巨額投資を「米製造業復活」の象徴としてアピールした。
トランプ氏は大統領選で、全米鉄鋼労組(USW)の組織票を意識するバイデン前大統領と競うように買収計画への反対を唱え、当選後も買収を「阻止する」考えを示した。だが、就任後は一転、日鉄による140億ドル(約2兆円)の巨額投資計画を自らの手柄として誇示し始めた。
5月30日には、大統領選の激戦州だった東部ペンシルベニア州のUSスチール工場で大規模集会を開催。語ったのは買収計画の中身ではなく、鉄鋼関税を50%に引き上げる方針だった。産業や雇用の保護を強化すると宣言し、支持のつなぎ留めを図った。
両社と米政府が締結した「国家安全保障協定」では、日鉄が2028年までに110億ドルを新規投資することを盛り込んだ。USスチールが発行する「黄金株」では、経営上の重要決定に拒否権を持たせ、本社移転や生産拠点の国外移転などもその対象に含めており、ラトニック商務長官は「米国とUSスチール労働者を保護する強力な条件だ」と持ち上げた。
結局、日鉄の株式取得が完了するまで、トランプ氏は「完全子会社化」など否定的な印象につながる発言は避けた。一方で、USスチールを再び繁栄させる道筋を自らが付けたと誇示し続けた。
日鉄の橋本英二会長は買収完了後の記者会見で、雇用を創出する工場拡張や製鉄所の新設など「計画していた全ての案件を時間軸を示して提示したのが決め手になった」と強調。「製造業復活を目指す米政府と目的が合致した」と1年半に及んだ買収劇を振り返った。