AI規制、開発者も賛否分裂=法案、知事署名が焦点―米加州 2024年08月31日
【シリコンバレー時事】人工知能(AI)産業の世界的な集積地、米カリフォルニア州議会でAI規制法案が通過した。「重大な損害」を食い止めるため、企業などに広範な安全対策を義務付ける内容で、開発者や研究者の間でも賛否が分かれている。反対派はメディアやSNSで「厳格な規制は技術革新を損なう」と批判を強めており、ニューサム知事が署名し成立するかに焦点が移る。
◇反対派、製造元責任に懸念
「法成立は重大な過ちになる」。AI研究の権威、アンドリュー・ング氏は29日、米タイム誌に寄稿し、悪用が生じるアプリではなく、さまざまな用途のベースとなる「AIモデル」を規制する点を批判した。例えば電動モーターは電気自動車(EV)だけでなく、爆弾にも使われると指摘。製造元に爆弾に使われない保証をさせるのは不可能で、技術開発を停止させるだけだと訴えた。
主な規制対象は1億ドル(約145億円)以上の開発費を投じたAIモデル。開発者は完全停止機能の導入を含む安全対策や監査を義務付けられる。甚大な金銭的・人的損害が発生、もしくはそのリスクが高い場合には、州司法長官は差し止め命令や損害賠償を求めて提訴することもできる。
法案に当初あった、開発者を偽証罪で刑事訴追できる規定は削除された。経営基盤の弱い新興企業の技術革新を阻むとの声を踏まえ、一定規模以上の開発費を投じたモデルに対象を限定する規定も追加されたが、反発は解消されていない。
◇賛成派、制御不能を危惧
一方で、EV大手テスラを率いる実業家イーロン・マスク氏はX(旧ツイッター)で「タフな判断だが、法案を可決すべきだ」と支持を表明した。AI企業も設立した同氏は長らく、AIが人類を絶滅に追い込むリスクを危惧し、広範な規制を提唱してきた。
カナダ・トロント大の名誉教授で、AI業界の「ゴッドファーザー」とも称されるジェフリー・ヒントン氏も賛成派だ。同氏は昨年、AIが急速に進歩し、制御不能になる危険性に警鐘を鳴らすため、グーグルを去った。法案を「懸念とのバランスを取るため、賢明なアプローチをとった」と評価している。
法案は既に州の上下両院で可決済み。残すは知事署名のみだが、州選出の連邦議員で、民主党重鎮のペロシ元下院議長は、あまたの有力ハイテク企業を生み育ててきた州の産業エコシステム(生態系)への悪影響を懸念。同党所属の知事に拒否権発動を迫っている。9月末の署名期限まで、論争は続く見通しだ。