米、住宅危機が深刻化=「中間層」を直撃―バイデン政権に逆風 2022年08月06日

 【ワシントン時事】記録的なインフレに見舞われた米国で住宅価格や家賃が急騰し、低・中所得者らを直撃している。バイデン大統領は「中間所得層の再生」を掲げて就任したが、住宅危機は深まるばかり。11月の中間選挙では有権者の不満が噴出し、政権の逆風となりかねない情勢だ。
 ◇若年層、手が出ず
 「普段なら10万ドル(約1350万円)程度の物件が15万ドル(約2000万円)以上で売られていた」。南部テネシー州の会社員エリック・サンダースさん(29)は、予想もしない大幅な値上がりに深いため息をついた。米不動産業者協会(NAR)によると、中古住宅価格(全米中央値)は6月に41万6000ドル(約5600万円)に上昇し、過去最高を記録した。
 米国ではサンダースさんのような30歳前後が「初めて持ち家を購入する年齢層」とされる。しかし、連邦準備制度理事会(FRB)が物価高の抑制に向けて大幅利上げを進めた結果、住宅ローンの金利が急上昇。価格高と相まって、若年層が住宅購入に二の足を踏むケースが増えた。ラウツNAR副会長は「初めての持ち家購入者は住宅市場の4割を占めたが、現在は3割程度だ」と話す。
 住宅購入希望者の多くが価格・金利の上昇で借家住まいを続けざるを得ない状況は、賃貸住宅の家賃を押し上げる要因となる。不動産情報サイトのリアルター・ドット・コムによれば、6月の全米50都市圏の家賃(中央値)は前年同月比で14%高い1876ドル(約25万円)となり、1年4カ月連続で過去最高を更新した。
 「家賃が上がり、住宅購入の頭金をためるのも難しくなった」。南部バージニア州に住む俳優のクリストファー・グリックさん(32)は、八方ふさがりの状況に肩を落とした。
 住宅価格や家賃が上昇する最大の原因は慢性的な供給不足だ。人口・雇用の増加を踏まえれば、「500万~600万戸足りない」との見方もある。さらに、新型コロナウイルス禍に伴う供給制約で木材などの資材が値上がり。建設作業員の人件費も上昇した。ラウツ副会長は「供給不足はコロナで悪化した」と認める。
 ◇実現しない「夢」
 バイデン政権は「手頃な住む場所を見つけることが困難になった」(ホワイトハウス高官)と焦燥感を募らせる。ただ、1500億ドル(約20兆円)規模の家賃補助など住宅対策を盛り込んだ「ビルド・バック・ベター(より良い再建)」法案は、与党民主党内の反対で議会通過が暗礁に乗り上げたままだ。
 米国民の持ち家志向は強い。ラウツ副会長は「自分の家を買うのは『アメリカン・ドリーム』だ」と強調する。条件面が厳しくなっても「買い手は依然多い」(首都ワシントン近郊の不動産業者)という。バイデン氏が住宅危機への対応に手をこまねいていれば、そのツケを中間選挙で払わされる可能性がある。
 「正直言って、政治には期待していない」。買える家がなかなか見つからないサンダースさんは、そうつぶやいた。 

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米東部メリーランド州の住宅街に掲げられた「売家」の看板=7月16日
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