「原爆もう使わないで」=被爆移住者、体験語る演劇―平和の願い訴える・ブラジル 2025年08月05日 15時04分

【サンパウロ時事】「原爆はもう使わないで」。80年前に地元の広島市で被爆した盆子原国彦さん(85)は、移住先のブラジルで演劇を通じ被爆体験を伝える活動を行っている。地球の反対側にいても、祖国が受けた被害の恐ろしさを語り続けようと決意。世界で紛争が絶えない中、核の惨劇を繰り返させたくないという一念で平和を訴えている。
5月末、サンパウロ市内の劇場で、手首を曲げた状態で両手を前に突き出し、「水をくれ」と苦しげにつぶやきながら歩き回る盆子原さんらの姿を、観客が食い入るように見詰めていた。2013年に始まった舞台公演は不定期に開催され、被爆者ら3人によるポルトガル語の語りと寸劇などで展開。盆子原さんは約25分間にわたり、5歳で迎えた1945年8月6日の記憶をたどった。
爆心地から2キロ地点に自宅があった盆子原さんは投下時、近所にあった父親の事務所にいて助かった。しかし、外に出ると街は炎と煙に包まれ、重いやけどを負った人々がさまよっていた。指先から皮膚をぶら下げながら歩く様子、遺体が川を埋め尽くす光景が今も目に焼き付いている。
◇ウクライナ侵攻で危機感
20歳でブラジルに渡った盆子原さんは、ブラジルの被爆者団体の活動として03年から人前で被爆体験を語るようになった。10年前に米国の学校で話す機会があった。同国では原爆は戦争終結を早めたと肯定的に教えられるが、参加した子どもから「放射能で苦しんだ人のことは教わらなかった。しっかり勉強したい」との感想を聞き、伝承活動に手応えを感じた。
劇中、盆子原さんは「プーチン(ロシア大統領)は原爆を使うかもしれないと言っており、とても危険だ」と話した。22年2月にロシアによるウクライナ侵攻が始まってから付け加えたせりふだ。「今は原爆が高性能で、大変な距離まで放射能が届く」と危機感を募らせる。
演劇の仕掛け人で、脚本や監督を担当するロジェリオ・ナガイさん(46)は、祖母が広島県出身。「ブラジルの日本移民に関してあまり語られていない題材を劇にしたかった」と発端を明かした。入場料無料の演劇は協賛金などに支えられており、継続に向けスポンサーの確保が課題。昨年死去した1人の代わりを日系人の役者が務めるが、高齢問題も差し迫っている。「人類の歴史は戦争の歴史。それが変わってほしい」。盆子原さんは世界の平和を願ってやまない。
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