暫定政権、薄氷の国家運営=選挙時期で反発、対中接近も―バングラ・ハシナ政権崩壊1年 2025年08月04日 14時38分

【ニューデリー時事】バングラデシュでハシナ政権が崩壊して5日で1年。ノーベル平和賞受賞者のユヌス首席顧問率いる暫定政権は、強権的支配の再来を防ごうと国内の改革を急いでいる。しかし、総選挙の早期実施を求める主要政党や軍と対立。薄氷の国家運営が続く。
◇一時辞任検討
「目標は明確だ。全てのバングラデシュ人が平和と誇り、自由や尊厳を持って暮らせる社会を築くことだ」。7月29日、ユヌス氏は首都ダッカで開かれたイベントでそう強調した。
昨夏、公務員採用の優遇問題に端を発した反政府デモはハシナ首相の辞任要求へと拡大。約15年にわたった長期政権が倒れた。デモに加わった学生ら推定1400人が治安部隊との衝突で死亡。その後、暫定政権トップに迎えられたのが、政治経験はないものの知名度の高いユヌス氏だった。
だが、今年に入り政治的な対立が目立ち始めた。ユヌス氏は憲法や司法制度を含めた改革を終えた後に総選挙を行うとしたのに対し、前体制下で弾圧を受けたバングラデシュ民族主義党(BNP)は早期実施を要求。暫定政権の後ろ盾だった軍のトップも「選挙で選ばれていない政権が国の針路を決めるべきではない」と、公然と反対した。
ユヌス氏は5月、対立激化を受け一時辞任を申し出たが、周囲の説得で踏みとどまったとされる。最終的に来年4月前半に総選挙を行うと表明したものの、前倒しを求める声は収まっていない。
◇前首相に実刑判決
一方で、隣国インドに逃亡したハシナ氏に対する訴追の動きが進む。バングラデシュの特別法廷は7月、同氏不在の中、法廷侮辱罪で禁錮6月の判決を言い渡した。同氏が率いた前与党アワミ連盟(AL)は活動を禁じられた。
6月に流通が始まった新紙幣では、ハシナ氏の父で「建国の父」故ラーマン初代大統領の肖像画が消えた。社会での「ハシナ色一掃」が進む。
◇近隣関係再構築
外交面ではハシナ氏の引き渡しに応じないインドと関係に亀裂が生じた一方、中国に接近。次期総選挙で躍進が有力視されるBNPやイスラム政党の代表者も最近北京を訪れている。かつて戦火を交えたパキスタンとは直行便の再開やビザ制限の緩和を打ち出した。
インド・デリー大学のシャム・ジャミル研究員(政治学)は「インド政府はベンガル湾地域での中国の拠点拡大を警戒し、バングラデシュとパキスタンの接近にも不安を募らせている。特に地政学的バランスを揺るがす可能性のある防衛やインフラ整備に関する取引を注視している」と指摘した。
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