北極にカラフトマス進出=秋サケやサンマは危機的不漁―謎のタラ、分布解明へ・第3部「未来が見える場所」(5)〔66°33′N=北極が教えるみらい〕 2024年11月06日 08時03分
北極海では国際的な調査や研究が進み、温暖化で魚類などの生息状況が変化していることが分かってきた。遠い日本近海でも海水温の上昇が進み、低迷が続く秋サケやサンマ漁に影を落としている。
◇漁獲せず調査可能に
近年、北極海ではカラフトマスの分布域が拡大している。2022年以降、サケ類の資源などについて話し合う国際会議やシンポジウムで、大西洋側、太平洋の双方から北極海に移動していることが報告されている。
日本から参加した北海道大学の帰山雅秀名誉教授によると、温暖化に適応したカラフトマスが著しく資源量を増加させ、北太平洋の海洋生態系の構造を変えようとしているという。カラフトマスは北極海にも分布域を拡大させつつあり、各国の研究者らが注目している。
ノルウェーの研究者は、増加したカラフトマスが北極海のバレンツ海で「地元のサーモン類にとって脅威となっている」と報告している。カラフトマスは過去に、ロシアによって人為的に移植された経緯もあり、ノルウェーでは侵略的外来種として駆除に乗り出しているという。
タラ類は、北極海固有種で生態に謎の多かったホッキョクダラが、北極海の特に低水温域に集まって分布していることが分かってきた。北海道大学大学院水産科学研究院の笠井亮秀教授らのグループが、海水中のDNAを分析する新たな手法で明らかにした。
氷に覆われる期間が長い北極海では、生物を直接捕獲する従来の調査が難しく、魚類の分布などはほとんど解明されていなかった。今後はこの手法で、他のタラ類やカレイ類などにも応用が期待されている。
◇水温上昇、日本近海に悪影響も
北極海の温暖化で魚の生息域が変わりつつある一方、遠く離れた日本近海でも、海水温の上昇などで秋サケやサンマの不漁が深刻化している。
サケは北海道などの川で生まれて海へ渡り、再び川に戻る習性がある。国立研究開発法人水産研究・教育機構によると、稚魚は春に沿岸で餌を食べて成長し、夏をオホーツク海で過ごすが、近年は水温の上昇が早まり、沿岸で成長できる期間が短くなっているという。
同機構は「稚魚が十分に成長できず、オホーツク海にたどり着ける数が少なくなっているのでは」と推測。サケはその後、オホーツク海から北太平洋や、北極海に近いベーリング海などを回遊して日本に戻るが、温暖化で「サケに適した水温帯の海域が北にシフトしている」(同機構)ともみられ、今後の漁獲への影響も懸念される。
一方、かつて日本近海で大量に取れたサンマは近年、資源量が少なく、漁場は沖合の遠い公海に移っている。冷たい親潮の流れが弱まり、道東沖や三陸沖の水温が高いため、沿岸に近寄りにくくなっていることも不漁の要因とされる。温暖化に伴う海水温の上昇が、近海の魚に大きな影響をもたらしている。