増え続ける墓標=戦死3.1万人「信じない」―連日の葬儀、埋葬地拡大・ウクライナ 2024年03月10日 14時33分

息子イホールさんの墓を訪れるイリナ・グレベンさん(左)と娘のアナスタシアさん=5日、ウクライナ西部リビウのリチャキフ墓地
息子イホールさんの墓を訪れるイリナ・グレベンさん(左)と娘のアナスタシアさん=5日、ウクライナ西部リビウのリチャキフ墓地

 【リビウ(ウクライナ西部)時事】ロシアの侵攻が長期化する中、ウクライナでは次々と新たな戦死者の墓標が立てられている。ゼレンスキー大統領は2月下旬、ロシアの侵攻開始以降の戦死者数を3万1000人と発表。だが、実際はそれよりはるかに多いと考える国民が大半を占める。墓標一つ一つにはためく無数の青と黄色の国旗が、戦争の現実を突き付けている。
 ◇息子の死
 西部リビウ中心部のリチャキフ墓地。イリナ・グレベンさん(42)は毎朝、息子が好きだったというコーヒーを買い、墓前に供える。
 軍士官学校を卒業後、息子イホールさん(22)は東部で砲兵部隊を指揮していた。昨年10月、副指揮官から音声メッセージが届いた。「(イホールさんのいる場所が)ミサイル攻撃を受けた。無事かどうか確認しに行く」。持って回った言い方に、既に息子の死が確認されたのだと直感した。
 「人に何かを与え、喜ぶ顔を見るのが好きな子だった」とイリナさん。生前は「僕が死んでも泣かないで。ロシアの侵略を止めるために戦わないといけないんだ」と話していたという。
 ◇2年で650基
 侵攻当初、戦死者はリチャキフ墓地の旧区画に埋葬された。だが、1カ月で場所が足りなくなり、第2次大戦のソ連軍戦死者らの埋葬地が使われるようになった。
 同墓地の管理者オレクサンドル・ドミトリフさんはこの2年余、自身の親族の葬儀に参列した1日を除き、すべての埋葬に立ち会ってきた。「ほぼ毎日、誰かが埋葬される。葬儀のない日があれば驚きだ」。侵攻以降に立てられた兵士の墓標は約650基。ソ連兵の遺骨を掘り起こして別の場所に移管する作業を進めており、「あと300人を埋葬できる」と語る。
 ◇こらえる涙
 イリナさんは「どの町や村でも毎日葬儀がある」と指摘。ゼレンスキー氏が発表した戦死者数について「信じられない。被害の実態を敵に明かせないのだろうが、はるかに多いはずだ」と話す。
 取材中、新たな戦死者が親族や友人に見送られ、葬られた。息子とおぼしき10歳前後の少年は葬儀の間、ずっと直立不動で唇をかみしめ、涙をこらえていた。
 イリナさんも息子の願いに沿い、葬儀で涙を流さなかった。「多くの人が亡くなるのは悲しい現実だが、私たちは戦い続けねばならない。息子や他の人たちは、この戦争に勝つために死んでいったのだから」。 

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ウクライナ西部リビウのリチャキフ墓地=3日
ウクライナ西部リビウのリチャキフ墓地=3日
リチャキフ墓地の管理者オレクサンドル・ドミトリフさん=5日、ウクライナ西部リビウ
リチャキフ墓地の管理者オレクサンドル・ドミトリフさん=5日、ウクライナ西部リビウ

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