キプロス、南北再統合の機運なく=分断50年、格差も顕著―制裁逃れの海外マネー流入 2024年07月20日 15時14分
ギリシャ系勢力のクーデターを機に、トルコ軍が「トルコ系住民の保護」を理由に地中海キプロス島に侵攻して20日で50年となった。島は北部を実効支配する「北キプロス・トルコ共和国」(トルコのみ承認)と、南側の欧州連合(EU)加盟国のキプロス共和国(ギリシャ系)の分断が続く。南北の経済格差が顕著な中、開発が遅れていた北側にはロシアなど海外からの資金が流入。交渉が決裂したまま再統合の機運は一段と遠のいている。
▽北で投資活発
北キプロスのイスケレ地区。ホテルや高層住宅の開発が相次ぎ、旺盛な需要を海外の投資資金や外国人が支える。特に欧米の制裁下のロシアやイランのほか、地理的に近いイスラエルなどの投資家が関与しているとされ、地元の男性エニスさん(75)は「外国人が小さな土地も買いあさった。彼らと交流はなく、私たちがむしろ外国人になってしまった」と嘆く。
北キプロスはトルコの強い影響下にある。トルコはウクライナ侵攻後のロシアと関係を維持し、米欧と対立する隣国イランとも緊密だ。このため、トルコに同調する北キプロスが制裁回避の投資先として注目を集めた。
ロシア富裕層などの資金は、金融や観光が主産業で税優遇措置もある南側のキプロスに流れ込んでいた。だが、キプロスは対ロ制裁を科すEUの一員。南から北への資金逃避が加速した。
こうした現状には不満も強い。首都ニコシアで取材に応じた北キプロスの野党議員フィクリ・トロス氏(62)は「北キプロスの魅力が増し、ここ2年半で資金力のある外国人が集まった。有益な面もあったが、極めて深刻な否定的影響も出てきた」と懸念する。
外国人が過剰に押し寄せ電気や水道、病院などのインフラ整備が追い付かず、物価も急騰。トロス氏は「急激な人口増に対し準備できておらず、経済の過熱で地元住民が貧しくなっている」と危機感を募らせる。
▽南へ「出稼ぎ」
投資が増えたとはいえ北キプロスは国際貿易の制限で発展の機会が乏しい。EU加盟で栄える南側での高収入を求め、北から緩衝地帯を越えて働きに出る人も多い。
ギュネル・エルカンルさん(62)は北キプロスから南側の保養地アヤナパのホテルへ通勤する。南で職を転々とし30年超。北側で警官を志すも拒まれ、「経済的に苦しかった」と話す。
南側では当初トルコ系住民への反発が強く、ギリシャ語が分からず怒鳴られることも。今も事務手続きなどで「見下されるような差別がある」という。一方、北に戻れば外貨を得られる仕事を住民にやっかまれ、「どれだけ苦労して稼いでいるか知らずに冷たくされる」と憤る。
トルコや北キプロスは南と「2国家併存」を掲げ、連邦制による解決を目指す国際社会との溝は大きい。2国家併存に反対するトロス氏は「不可逆的に期限を決めた交渉を行うべきだ」と訴えている。