9月の会合で金融緩和に踏み切る可能性高まる=FOMC議事録 2024年08月22日 10時15分

 米連邦準備理事会(FRB)は7月30日、31日に開かれた連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録を公開しました。今回の会合でFOMCは、前回の会合に引き続きフェデラルファンド金利(FF金利)を5.25~5.50%に据え置く決定をしました。

 参加メンバー全員が、FF金利金利の目標レンジを5.25~5.50%に維持することを支持しましたが、何人かは最近のインフレの進展と失業率の上昇から、今回の会合で目標レンジを25ベーシスポイント引き下げるような決定を支持できたと述べています。今後の見通しについて、参加メンバーは、「経済活動の成長が堅調に推移していること、インフレに一定の進展がみられること、労働市場の状況が緩和している」と指摘、「インフレに関する今後のデータは有望であるものの、FF金利の目標レンジを引き下げることが適切と判断する前に、インフレが当委員会の目標である2%に向けて持続的に進んでいることをより確信させるための追加情報が必要であると述べた。とはいえ、参加メンバーは、今回発表されたデータはインフレが当委員会の目標に向かっているという確信を強めるものだ」とし、「大半の参加メンバーは、予想通りのデータが続けば、次回会合で金融緩和を行うのが適切であろう」との見解を示しています。次回のFOMCは、9月17日、18日(米国時間)に開催されます。

FOMC議事録(要旨) 

■米国経済の現状と見通しに関する議論

【インフレ】

 インフレは過去1年間で緩和したものの、依然高水準にあり、ここ数ヵ月で当委員会のインフレ目標2%に向けて若干の進展があったことを確認した。参加メンバーは、最近のディスインフレ(*1)の進展は、コア・インフレの広範囲な主要な構成要素に及んでいると指摘した。コア財価格は、年初3カ月間に上昇した後、3月から6月にかけてほぼ横ばいとなった。6月の住宅サービス価格上昇率は顕著な鈍化を示したが、これは参加メンバーが以前から予想していたことであった。これに加えてコア非住宅サービス価格もここ数ヵ月減速していた。

 インフレ率の見通しについて参加メンバーは、最近のデータからインフレ率が持続的に2%に向かっているとの確信を強めたと判断した。ほぼすべての参加メンバーは、最近のディスインフレの要因となっているものが、今後数カ月でもインフレ抑制圧力をかけ続けると見ていた。これらの要因には、価格決定力の継続的な低下、経済成長の鈍化、パンデミック時に蓄積された家計貯蓄の流出などが含まれる。多くの参加メンバーは、労働市場の状況がリバランスするにつれて労働コストの伸びが緩やかになっていることが、特に非住宅サービス価格のディスインフレに引き続き寄与するだろうと指摘した。

(*1)ディスインフレは、物価の上昇率が低下していく状況のことで、需要が減退し、それに対して供給が大幅に上回る結果引き起こるデフレーションとは異なるもの。

【労働市場】

 参加メンバーは、労働市場の需給バランスは改善し続けていると評価した。失業率は2023年4月の谷から0.7ポイント上昇し、6月には4.1%となった。毎月の雇用増加ペースは第1四半期より緩やかになったが、ここ数ヵ月は堅調だった。しかし、多くの参加メンバーは、報告されている雇用者数の増加は誇張されている可能性があると指摘し、労働力率が横ばいの中、失業率を一定に保つために必要な雇用者数の増加よりも低い可能性があると評価した。参加メンバーは、雇用率の低下や年初来の求人数の減少傾向など、他の指標も労働市場の緩和を示唆していると指摘した。参加メンバーは、過去1年間の労働市場環境のリバランスは、25歳から5454歳までの労働力率の上昇と移民の好調なペースを反映した労働者供給の拡大にも助けられたと指摘した。参加メンバーは、労働市場環境のリバランスが続く中、名目賃金の伸びは緩やかになっていると指摘した。参加メンバーの多くは、労働市場環境が緩和しているとの見方を裏付ける地区からの報告を引用した。特に、各地区の担当者は、労働者の雇用と定着が難しくなくなり、賃金上昇圧力も限定的であると報告した。参加メンバーは総じて、労働市場の状況はパンデミック前夜とほぼ同じ水準に戻ったと評価した。

 労働市場の見通しについて参加メンバーは、初期失業給付申請や離職率など、解雇に関する様々な指標について議論した。一部の参加メンバーは、これらの指標は堅調な労働市場と一致する水準で推移しているとコメントした。参加メンバーは、労働市場の状況を示すこれらの指標やその他の指標を注意深く監視することが重要であるとの意見で一致した。複数の参加メンバーによると、各地区の担当者は、選択的な雇用と人員削減を通じて、従業員数を積極的に管理していると報告した。

【GDP】

 参加メンバーは、実質GDP成長率は、昨年後半の力強いペースに比べれば緩やかではあるが、今年前半は堅調であったと指摘した。通常、GDP成長率よりも景気の勢いを示すPDFP成長率(*2)も上半期には緩やかになったが、GDP成長率よりは低かった。PDFPは、個人消費と企業固定投資の伸びに支えられ、堅調なペースで拡大した。参加メンバーは、経済活動の伸びの緩やかさはほぼ予想通りであったと見ている。

(*2)PDFPは「Private Domestic Final Purchases (PDFP)」の略。「国内民間最終購買」を意味し、民間の消費支出と投資支出を合計したもの。PDFP成長率はGDPの一部であり、特に民間セクターの購買活動に焦点を当てた指標。

【家計部門】

 家計部門については参加メンバーは、金融引締め政策、労働市場の緩和、所得の伸びの鈍化と一致し、個人消費は昨年の堅調なペースから鈍化したと観察した。しかし、依然として堅調な労働市場と家計のバランスシートに支えられ、今年前半の個人消費は堅調なペースで伸びたと指摘した。参加メンバーの中には、低・中所得世帯は、パンデミック時に貯蓄をほとんど使い果たした後、生活費の増加に対応しようとするため、負担が増加しているとの見方もあった。このようなひずみは、クレジットカードの延滞率の上昇や、残高の最低返済額を支払っている世帯の割合の増加といった指標に表れており、引き続き注視する必要があると参加メンバーは指摘した。参加メンバーの何人かは、消費者、特に低所得世帯の消費者が裁量支出から離れ、低価格の食品やブランドに切り替えているとの報告を挙げた。参加メンバーの何人かは、一部の高所得世帯の支出は、株式や住宅価格の上昇による富の増加効果によって支えられている可能性が高いと述べた。参加メンバーは、第2四半期の住宅投資は低調であったと指摘したが、これは年初からの住宅ローン金利の上昇を反映していると思われる。

【企業部門】

 ビジネス・セクターについて参加メンバーは、企業規模、セクター、地域によって状況が異なると指摘した。参加メンバーの何人かは、各地区のコンタクト先から、大企業は概ね安定した見通しと報告されたが、中小企業の見通しはより不透明であると指摘した。参加メンバーの中には、製造業はやや弱含みで推移しているが、専門・ビジネスサービス業や技術関連は堅調であるとの報告もあった。数名の参加メンバーは、農業部門が食料品価格の低迷と投入コストの高騰に起因するひずみに引き続き直面していると指摘した。

【経済見通し】

 参加メンバーは、経済見通しをめぐるリスクと不確実性について議論した。インフレ見通しに対する上振れリスクは減少したと見られたが、雇用に対する下振れリスクは増加したと見られた。参加メンバーは、インフレと雇用の目標達成に対するリスクは、より良いバランスで推移していると見ており、これらのリスクは多かれ少なかれバランスが取れていると指摘する参加者もいた。参加メンバーの中には、労働市場の状況が緩和するにつれて、緩和の継続がより深刻な悪化に移行するリスクが高まっていると指摘する者もいた。インフレの上振れリスクとして、参加メンバーの中には、サプライチェーンの混乱や地政学的状況のさらなる悪化の可能性を挙げる者もいた。金融緩和が経済活動を押し上げ、経済成長とインフレの上振れリスクをもたらす可能性を指摘する参加メンバーも数名いた。

【金融の安定性】

金融の安定性に関する議論で参加メンバーは、金融システムの脆弱性を指摘し、監視する必要があると指摘した。参加メンバーの中には、銀行システムは健全だが、有価証券の含み損、無保険預金への依存、銀行以外の金融仲介機関との相互接続に関連するリスクを指摘する者もいた。銀行の資金調達に関する議論では、割引窓口が重要な流動性におけるバッ クストップ(最後の守り手)であるため、FRBは引き続き同窓口の業務効率を改善し、同窓口の価値について効果的なコミュニケーションを図るべきであ ると、複数の参加メンバーがコメントした。参加メンバーは総じて、一部の銀行やノンバンク金融機関は、ローン・ポートフォリオやCMBS(*3)の保有を通じて、高いCREエクスポージャーに関連する脆弱性を抱えている可能性が高いと指摘した。これらの参加メンバーの大半は、CREエクスポージャーに関連するリスクは、不動産の種類や、関連する不動産の地域的な市況に大きく左右されると述べた。何人かの参加メンバーは、他市場における資産評価の圧力についても懸念を示した。

(*3)Commercial Mortgage Backed Securitiesの略称、「商業不動産担保証券」のこと。ホテル、ショッピング・モール、オフィスビルなど商業用の不動産に対して実施した融資をひとまとめにし、それを担保にして証券化した金融商品をいう。

 多くの参加メンバーは、金融機関や金融インフラ、ひいては経済全体の運営を損なう可能性のあるサイバーリスクについてコメントした。金融セクターへの情報技術サービスの提供では少数の企業が重要な役割を担っており、また金融業界自体もいくつかの企業が高度に相互接続しているため、少数の重要な企業で重大なサイバー障害が発生した場合、広範囲に影響を及ぼすリスクが高まっているとの指摘があった。

■金融政策決定の関する議論

 今回の会合で金融政策を検討するにあたり、参加メンバーは、最近の経済指標から経済活動が堅調なペースで拡大を続けていること、雇用の増加が緩やかになっていること、失業率が上昇したものの低水準を維持していることが示唆されていることを確認した。インフレ率は当委員会の長期目標である2%をやや上回ったままであったが、参加メンバーは、インフレ率が過去1年間で緩和したこと、また、最近入ってきたデータが当委員会の目標に向けた更なる進展を示していることに留意した。参加メンバー全員は、FF金利金利の目標レンジを5.25~5.50%に維持することを支持したが、何人かは、最近のインフレの進展と失業率の上昇から、今回の会合で目標レンジを25ベーシスポイント引き下げるもっともらしいケースを提供した、あるいはそのような決定を支持できたと述べた。参加メンバーはさらに、FRBの証券保有高を削減するプロセスを継続することが適切であると判断した。

 金融政策の見通しについて議論する中で、参加メンバーは、経済活動の成長が堅調に推移していること、インフレに一定の進展がみられること、労働市場の状況が緩和していることに言及した。ほぼすべての参加メンバーは、インフレに関する今後のデータは有望であるものの、FF金利の目標レンジを引き下げることが適切と判断する前に、インフレが当委員会の目標である2%に向けて持続的に進んでいることをより確信させるための追加情報が必要であると述べた。とはいえ、参加メンバーは、今回発表されたデータはインフレが当委員会の目標に向かっているという確信を強めるものだと考えている。大半の参加者は、予想通りのデータが続けば、次回会合で政策緩和を行うのが適切であろうとの見解を示した。多くの参加メンバーからは、金融引締めの度合いについては様々な見解が示された。また、政策金利の名目目標レンジに変更がないディスインフレが続いている場合、それ自体が金融政策の引き締めにつながると指摘する参加メンバーも数名いた。ほとんどの参加メンバーは、当委員会のデータに依存したアプローチを伝えることの重要性を指摘し、特に、金融政策の決定は、あらかじめ設定された経路上にあるのではなく、経済の進化を条件としていること、あるいは、その決定は、特定のデータポイントに依存するのではなく、入ってくるデータの全体像に依存することを強調した。参加メンバーの何人かは、FRBのバランスシート縮小が進む中、金融市場の状況や準備需要に影響を与える要因を監視する必要性を強調した。

 金融政策の見通しに影響を与えうるリスク管理上の留意点について議論する中で、参加メンバーは、現在の金融政策が与えている引締めの量、過去と現在の金融引締が経済活動に与えた影響と今後与える影響のラグ、パンデミックに伴う混乱後の経済の正常化の程度など、見通しに影響を与える不確実性を強調した。参加メンバーの大半は、雇用目標に対するリスクが高まったと指摘し、多くの参加メンバーはインフレ目標に対するリスクが低下したと指摘した。一部の参加メンバーは、労働市場の状況がさらに緩やかに緩和することで深刻な悪化に転じるリスクがあることを指摘した。多くの参加メンバーは、金融引締めの縮小が遅すぎたり少なすぎたりすると、経済活動や雇用を過度に弱めるリスクがあると指摘した。数名の参加メンバーは、特にいったんそのような弱体化がかなり進行すると、それに対処するためのコストと課題を強調した。参加メンバーの何人かは、金融引締めの縮小が早すぎたり、大きすぎたりすると、総需要が復活し、インフレの改善が逆転するリスクがあると指摘した。これらの参加メンバーは、インフレに上昇圧力をかけうる潜在的なショックや、インフレが予想以上に持続する可能性に関するリスクを指摘した。

(H・N)

[ゴールデンチャート社]

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■関連情報(外部サイト)
FOMC議事録(原文、FRB)