インフレ低下の兆候は認めるが、2%に向けた検証が不十分=FOMC議事録 2023年08月17日 10時02分

[ゴールデンチャート社] 2023年8月17日

 米連邦準備理事会(FRB)は7月25日、26日に開かれた連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録を公開しました。今回の会合では、0.25%の利上げを決定しましたが、一部参加メンバーは、FF金利の据え置きを支持しています。インフレ圧力が弱ってきている兆候を認めつつも、長期目標である2%に戻る軌道にあるとの確証が得られるには、更なるデータの検証が必要であり、「今後の金融政策は、最新の情報を考慮に入れて決定する」との言い方を繰り返すのみで、利上げ停止時期についての言及を避けました。

FOMC議事録(要旨) 

■米国経済の現状と見通しに関する議論

【米国経済】
 米国の経済活動は緩やかなペースで拡大している。ここ数カ月、雇用は堅調に増加しており、失業率は低水準を維持しているが、インフレ率は依然として高水準にある。参加メンバーは、米国の銀行システムは健全で強靭であることに同意した。参加メンバーは、家計や企業の信用状況の悪化が、経済活動、雇用、インフレの重荷になる可能性が高いとコメントした。しかし、こうした影響の程度は依然として不透明であるとの認識で一致した。このような背景から、当委員会はインフレ・リスクに高い関心を示した。
 経済見通しの評価では、実質GDP成長率が今年前半に引き続き底堅さを示し、経済がかなりの勢いを見せていることに着目した。それにもかかわらず、経済活動の緩やかな減速が進行しているように見え、これは、昨年初めからの金融引き締めの累積と、それに伴う金融情勢への影響により、需要が抑制されていることと一致している。参加メンバーは、金融政策の経済への効果の遅れが不確実であることを指摘すると同時に、引き締め政策は概ね意図したとおりに機能しているようであり、実質GDP成長率の緩やかな鈍化が続けば、経済の需給不均衡の是正に役立つとコメントした。
 直近の銀行調査で明らかになったように、銀行部門の信用状況の引き締めが続いていることも、今後数四半期の経済活動の重荷になる可能性が高いと評価があった。参加メンバーは、最近の総インフレ率とコア・インフレ率の低下に注目したが、インフレ率は依然として容認できないほど高く、インフレ率が当委員会の目標である2%への道筋を明確に示していると確信するには、さらなる証拠が必要であると強調した。参加メンバーは、総供給と総需要のバランスを改善させ、インフレ圧力を十分に低下させ、インフレ率を長期的に2%に戻すためには、実質GDPがトレンドを下回る成長と労働市場環境の若干の軟化が必要であるとの見方を示した。

【家計】
 家計のバランスシートの強さ、堅調な雇用と所得の増加、低い失業率、消費者心理の高まりに支えられ、個人消費は最近かなりの回復力を示している。とはいえ、金融環境はタイトな状況であり、当委員会が金引締めスタンスに移行したことによる累積効果を反映しており、今後一定期間、消費の伸びの鈍化に寄与すると予想された。参加メンバーは、過剰貯蓄ストックの減少、労働市場の軟化、消費者側の価格感応度の高まりなど、消費の鈍化につながりそうな、あるいはそれと整合すると思われる要因を挙げた。最近の住宅価格の上昇が、金融引締め政策に対する住宅セクターの反応がピークに達した可能性を示唆しているとの指摘があった。

【ビジネス・セクター】
 ビジネス・セクターに関する議論では、企業のコスト構造の様々な改善が指摘された。これには、サプライチェーンの機能改善、投入コストの低下、労働者の雇用・維持能力の向上などが含まれている。在庫の減少や急激な景気減速の可能性の低下、経済の不確実性の継続、CRE市場(*1)の脆弱性、製造業生産高の継続的な低迷など、経済活動の低下につながる可能性のある要因についても議論した。参加メンバーは、今後数四半期にわたり、企業は金融環境の逼迫と経済活動の鈍化に対応して、投資支出や雇用のペースを減らしていくと見ている。

 (*1)CRE市場;企業が事業を行うために保有(賃貸借)をしている土地や建物

【労働市場】
 労働市場は引き続き非常にタイトであるが、需要と供給のバランスが改善しつつある兆候が指摘された。求人数の減少、退職率の低下、パートタイム労働の増加、労働時間の伸びの鈍化、失業保険申請件数の増加、名目賃金の伸び率の緩やかさなど、労働需要が緩和している証拠が指摘された。加えて、労働供給が増加していることが示唆されている。参加メンバーは労働市場における需要と供給のバランスの改善が必要であると判断し、労働市場の状況が時間の経過とともに更に軟化すると予想した。

【インフレ】
 参加メンバーはインフレ圧力が弱まりつつあることを示すいくつかの兆候を挙げた。これらの兆候には、コア財価格の若干の軟化、ネット販売での物価の低下、企業の値上げが以前より低下している証拠、家賃上昇の鈍化、短期インフレ期待とインフレの不確実性に関する推計値の低下などが含まれる。何人かの参加メンバーは、住宅を除くコア・サービスの価格にはまだディスインフレ圧力(*2)が顕在化していないとコメントした。直近の緩和傾向にもかかわらず、インフレ率は当委員会の長期目標である2%を大幅に上回っており、インフレ率の上昇は企業や家計(特に低所得者層)に悪影響を与え続けていると指摘があった。参加メンバーは、インフレ圧力が和らぎ、インフレが長期的に2%に戻る軌道にあると確信するには、インフレに関するデータを検証し、総需要と総供給がより良いバランスに移行していることを示す更なる兆候が必要であると強調した。 
 参加メンバーは過去の金融引き締めが経済に与えた累積的な影響について、高い不確実性を指摘した。最近のサプライチェーンの改善や良好な商品価格トレンドが継続しない場合や、総需要が長期的に物価安定を回復するのに十分な量まで減速しない場合などインフレに対する上振れリスクを挙げた。経済活動とインフレに対する下振れリスクについて議論する中で、参加メンバーは、金融引き締めの累積が予想以上に急激な景気減速につながる可能性や、銀行の信用状況の引き締めの影響が予想以上に大きくなる可能性を考慮に入れている。

 (*2)ディスインフレ;物価の上昇率(インフレ率)が低下していく状態

【銀行セクター】
 金融の安定性についての議論の中で、参加メンバーは、銀行システムは健全かつ強靭であり、ここ数カ月で銀行業界のストレスは落ち着いているとの見解を示した。直近のストレステストの結果から、大手銀行は深刻な景気後退に耐えられる態勢が整っているようだとの指摘があった。金利上昇による資産の含み損、無保険預金への大きな依存、資金調達コストの増加など、一部の銀行に影響を及ぼす可能性のあるリスクについてコメントがあった。数人の参加メンバーは、銀行がFRBの流動性ファシリティを利用する態勢を確立し、FRBがストレス時に流動性を供給する態勢を確保する必要性を強調した。

■金融政策決定の関する議論

 参加メンバーは、経済活動が緩やかなペースで拡大していることに同意、労働市場は、ここ数カ月の堅調な雇用増加や失業率の低さなど、依然として非常にタイトな状態にあるが、労働市場における需給がより良いバランスになりつつある兆候が続いている。また、家計や企業が直面している信用状況の悪化が経済への逆風となり、経済活動、雇用、インフレの重荷となる可能性が高いと指摘した。しかし、こうした影響の程度は依然不透明である。インフレ率は昨年半ばから緩やかになったものの、当委員会の長期目標である2%を大幅に上回る水準にとどまっており、インフレ率を2%まで低下させる決意を堅持することを確認しした。こうした経済状況の中、ほぼ全ての参加者は、今回の会合でフェデラルファンド金利(FF金利)の目標レンジを5.25~5.50に引き上げることが適切であると判断した。

 この措置は金融政策のスタンスをさらに引締めの領域に置くものであり、経済の需給不均衡を緩和し、物価安定の回復に貢献するものである。何人かの参加メンバーは、FF金利の目標レンジの据え置きを支持、あるいはそのような提案を支持する可能性を示唆した。参加メンバーは、現時点での引締めレベルの維持が、当委員会の目標に向けたさらなる進展をもたらす可能性が高いと判断、同時に当委員会がこの進展を検証する時間を与えることになると考えている。

 「連邦準備制度理事会(FRB)のバランスシート縮小計画」に記載されているように、連邦準備制度理事会(FRB)の証券保有高を削減するプロセスを継続することが適切であるとの意見で一致した。多くの参加メンバーは、バランスシートの縮小は、当委員会がフェデラルファンド金利の目標レンジを縮小し始めたときに終了する必要はないと指摘した。

 経済見通しに関する不確実性が依然として高いことに着目し、今後の会合での金融政策の決定は、入ってくる情報の総合的判断と、経済見通しやインフレ率、さらにはリスクバランスの意味合いによって判断すべきとの認識で一致した。今後数カ月に公表される経済データが、ディスインフレのプロセスがどの程度続いているのか、製品市場と労働市場がより良い需給バランスに達しているのかを明らかにするのに役立つと期待している。参加メンバーは、インフレ率が当委員会の長期目標を依然大幅に上回り、労働市場もタイトなままであることから、インフレ率には大きな上振れリスクがあり、さらなる金融引き締めが必要となる可能性があると引き続き見ている。一部の参加メンバーは、経済活動が底堅く、労働市場が堅調を維持しているにもかかわらず、経済活動の下振れリスクと失業率の上振れリスクが引き続き存在するとコメントした。

(H・N)

■関連記事
引締め効果が発揮されるのはこれから=パウエル議長FOMC記者会見冒頭スピーチ
7月26日、FRB声明=0.25%の利上げを決定

■関連情報(外部サイト)
FOMC議事録(原文、FRB)