利上げ停止の見通し示されず=FOMC議事録 2023年05月25日 10時33分

[ゴールデンチャート社] 2023年5月25日

 米連邦準備理事会(FRB)は5月2日、3日に開かれた連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録を公開しました。今回の会合では、米国で相次いだ銀行破綻に関する議論に多くの時間が費やされました。銀行セクターの動向が今後の金融政策決定において少なからず影響を与えるとの見通しが示されました。インフレ率が下降トレンドを示す一方で、銀行セクターの緊張感が払拭されず経済活動への圧迫が懸念される中、6月13日、14日のFOMCで利上げが停止されるか否かが焦点となってきました。FOMC参加メンバーはこぞって「不確実性が増した」と述べています。

FOMC議事録(要旨) 

■米国経済の現状と見通しに関する議論

  • 第1四半期の経済活動は緩やかなペースで拡大したが、ここ数カ月、雇用の増加は堅調であり、失業率は低水準で推移している。インフレ率は引き続き高水準であった。参加メンバーは、米国の銀行システムは健全で弾力的であることに同意した。また、参加メンバーは、家計や企業の信用状況の悪化が、経済活動、雇用、インフレに重くのしかかる可能性が高いとコメントした。しかし、これらの影響の程度は依然として不確実であり、このような背景から、参加メンバーはインフレリスクに引き続き高い関心を寄せていた。
  • 今年第1四半期の実質GDPの成長率は、個人消費の持ち直しにもかかわらず在庫投資(変動しやすいカテゴリー)が大幅に減少したため、緩やかなものになったとの指摘があった。2023年の実質GDPの成長率は、金融引締めの影響を反映し、概ね長期トレンド率を下回るペースになると予想した。銀行セクターのストレスが経済活動にさらに重くのしかかる可能性が高いと判断があったが、その程度は依然として極めて不確実である。参加メンバーは、インフレ率は当委員会の長期目標である2%を大幅に上回り、コア・インフレ率は緩やかな兆候しか示していないため、総供給と総需要をより良いバランスに保ちインフレ圧力を長期的に低下させるには、実質GDPのトレンド以下の成長と労働市場で多少の軟化が必要であると予想した。
  • 銀行セクターの動向に対応してFRBと他の政府機関がとった措置は、ストレスを軽減する上で効果的であった。一部の地方銀行や中小銀行が経験した初期の預金流出がその後の数週間で大幅に緩和され、銀行セクターの状況は、概ね改善したとの指摘があった。参加メンバーは、今後数四半期での銀行セクターのストレスは、金利の上昇だけに反応するよりも、銀行の貸出基準をより厳しくするよう誘導する必要性があると判断していた。しかし、参加メンバーは総じて、経済活動への影響の大きさと持続性を確信を持って評価するには時期尚早であると指摘した。
  • 家計部門に関しては、個人の可処分所得の増加に支えられ、第1四半期の個人消費が好調であったが、第1四半期の個人消費の伸びは、主に1月の非常に強い伸びがもたらしたもので、2月と3月の実質支出は小幅に減少した。この減速に伴い、過去1年間の金融引き締めの影響を大きく反映して2023年の残りの期間の個人消費は、控えめな成長率になる可能性が高いと予想した。金利の上昇は、住宅や耐久消費財など金利に敏感な家計の支出を引き続き抑制するとの指摘があった。また、最近の銀行セクターの動向に関連した不確実性の高まりが、消費者心理や支出に重くのしかかる可能性がある点も指摘された。
  • 企業部門については、借入コストの高さ、企業部門の生産高の伸び悩み、一般的な経済見通しに対する企業の懸念の高まりを反映して、第1四半期の企業の固定投資の伸びは低調であった。参加メンバーは、銀行の貸出基準の引き締めが企業の設備投資にさらに重くのしかかると予想した。何人かの参加メンバーは、各地区からの報告から銀行セクターのストレスに関連する懸念は、すでに軟調な経済見通しにさらに不確実性を加え、特に事業資金を銀行の融資に大きく依存している中小企業において、企業の警戒心を高める可能性があると指摘した。しかし、他の参加メンバーは、銀行セクターの動向は、これまでのところ企業の信用供与にわずかな影響しか与えていないように見えると述べた。
  • 3月の雇用者数は堅調な増加を示し、失業率が歴史的に低い水準にあることから、労働市場は非常にタイトな状態が続いている。しかし、初老期の労働力人口がコロナ流行前の水準に戻り、求人と退職の割合がさらに低下するなど、労働市場における需要と供給の不均衡が緩和される兆しが見られるとの指摘があった。参加メンバーは、信用状況の悪化からくる総需要の減速を反映し、雇用の伸びはさらに鈍化、適切な金融政策の下で労働市場の不均衡が徐々に解消され、賃金や物価への圧力が緩和されると予想した。
  • インフレ率が容認できないほど高い。3月までのデータでは、インフレ率の低下、特にコア・インフレの指標は予想よりも緩やかであった。
  • 経済見通しに関しては、最近の銀行ストレスに関連するリスクにより、経済見通しに関する不確実性が高まっている。経済活動の見通しに対するリスクは下方に偏っているとの判断があったが、少数の参加メンバーは、リスクは両側であると指摘した。経済活動の下振れリスクの要因について、金融政策の引き締めの累積が経済活動に予想以上の影響を与える可能性や、銀行セクターのさらなる緊張が予想以上に深刻であることが判明する可能性に言及があった。また、一部の参加メンバーは、連邦政府の債務上限が適時に引き上げられず、金融システムに大きな混乱が生じ、金融環境が悪化して経済が弱体化する恐れがあるとの懸念を示した。インフレに対するリスクについては、参加者は、例えば、予想以上に強い個人消費とタイトな労働市場、特に銀行のストレスが経済活動に与える影響が小さいと証明された場合、物価上昇圧力が予想以上に持続する可能性を指摘があった。
  • 金融の安定化に関して、銀行システムは健全で弾力的であり、FRBが他の政府機関と連携して行った措置は、銀行セクターの状況を落ち着かせるのに役立ったが、ストレスは依然として残っているとの指摘があった。銀行セクターは全体として資本が充実しており、銀行システムにおける最も重大な問題は、リスク管理のやり方が悪いか、脆弱性に大きくさらされている少数の銀行に限られているようだ。この脆弱性とは、金利上昇に伴う資産の大幅な含み損、無保険預金への依存度の高さ、資金調達コストの上昇に伴う収益力の低下などである。多くの参加メンバーは、金融システムやより広範な経済に深刻な悪影響を及ぼす混乱を避けるために、債務上限をタイムリーに引き上げることが不可欠であると述べた。FRBが、将来の金融安定化リスクを軽減するために、流動性ツールだけでなく、ミクロプルーデンス(*1)とマクロプルーデンス(*2)の規制・監督ツールを使用する態勢を維持すべきであるとの指摘があった。

(*1) ミクロプルーデンス;個別の金融機関の経営を監視・監督し破綻を未然に防ぐことを目的とする政策のことで、当局のの検査や考査等のこと。

(*2)マクロプルーデンス;金融システム全体のリスクの状況を分析・評価し、それに基づいて制度設計・政策対応を図ることを通じて、金融システム全体の安定を確保するとの考え方。

■金融政策決定の関する議論

  • インフレ率は当委員会の長期目標である2%に対し大幅に上昇したままで、第1四半期の経済活動は、緩やかなペースで拡大した。労働市場は、ここ数カ月月の堅調な雇用増加により引き続きタイトであり、失業率は低いままであった。最近の銀行セクターの動向により、家計や企業の信用状況が厳しくなり、経済活動、雇用、インフレに重くのしかかる可能性が高い。しかし、これらの影響の程度は依然として不確実である。このような背景から、全ての参加者は、フェデラルファンド金利の目標レンジを25bp引き上げ、5%から5.25%とすることが適切であることに合意した。また、以前に発表した「FRBのバランスシート縮小計画」に記載されているように、FRBの証券保有高を削減するプロセスを継続することが適切であることに同意した。
  • 累積的な金融引き締めの遅行効果と、信用状況の更なる引き締めが経済に及ぼす潜在的な影響を鑑み、今回の会合後に目標レンジの追加引き上げがどの程度必要であるかは、概ね確実でなくなっていることに同意した。入ってくる情報を注意深く監視し、金融政策への影響を評価することが重要であることに合意した。
  • インフレ率を長期的に2%に戻すために、追加の金融政策がどの程度適切かを判断する上で、将来の決定に影響を与えるべき特定の要因について議論した。要因の一つとして、累積的な金融引き締めが経済活動を抑制してインフレ率を低下させた程度とタイミングであり、もう一つの要因は、銀行セクターで起きた出来事の結果、家計や企業の信用状況がどの程度厳しくなり、経済活動を圧迫してインフレ率を低下させたと考えるかであるが、参加メンバーは非常に不確実であることに同意した。
  • 将来の金融政策決定に影響を与える可能性のあるリスク管理上の考慮事項について議論した。少数の参加メンバーは、経済成長には上向きのリスクがあると評価した。しかし、ほぼ全ての参加メンバーは、銀行セクターの動向が信用状況の一層の引き締めにつながり、経済活動を圧迫する可能性があるため、成長に対する下方リスクと失業に対する上方リスクが高まったとコメントした。インフレ率が当委員会の長期目標を依然大きく上回り、労働市場がタイトであることから、インフレ見通しの上振れリスクが金融政策見通しを形成する重要な要因であり続けていると述べた。少数の参加メンバーは、インフレの下振れリスクもあると指摘した。
  • 今後さらなる金融引き締めがどの程度適切かについて、参加メンバーは概して不確実性を示した。多くの参加者は、今回の会合後のオプション性を保持する必要性に焦点を当てた。一部の参加メンバーは、将来の会合で追加の政策引き締めが正当化される可能性が高いとコメントする一方で。何人かの参加メンバーは、経済が現在の見通しに沿って進展するのであれば、今回の会合後にさらなる政策の引き締めを必要としない可能性があると指摘した。

(H・N)

■関連記事
5月3日、FRB声明=0.25%の利上げを決定
インフレ2%実現は長い道のり=パウエル議長FOMC記者会見冒頭スピーチ
■関連情報(外部サイト)
FOMC議事録(原文、FRB)