銀行破綻が不確実性を増大させた=FOMC議事録 2023年04月13日 10時26分
[ゴールデンチャート社] 2023年4月13日
米連邦準備理事会(FRB)は3月21日、22日に開かれた連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録を公開しました。今回の会合では、会合の直前に発生した米地方銀行の破綻に関連した経済見通しや政策金利決定の議論に多くの時間が費やされました。「銀行セクターの動向が、家計や企業の信用状況の悪化を招き、経済活動、雇用、インフレに影響を及ぼす可能性が高い」との見解が示され、このことがFOMCの金融政策決定に影響を与えることを認めました。また今後の経済見通しは、不確実性がより高まったとの認識を示しました。
FOMC議事録(要旨)
■米国経済の現状と見通しに関する議論
- 現在の経済状況について、最近の指標が消費と生産の緩やかな伸びを示していることに着目し、雇用の増加がここ数カ月で回復し、堅調なペースで推移していること、失業率は低水準で推移していること、インフレ率が高水準で推移していることへの言及があった。参加メンバーは米国の銀行システムが健全で弾力的であることに同意したが、最近の銀行セクターの動向は、家計や企業の信用状況の悪化を招き、経済活動、雇用、インフレに影響を及ぼす可能性が高いとのコメントがあった。これらの影響の程度は不確実である。このような背景から、参加メンバーは引き続きインフレリスクに高い関心を寄せた。
- 参加メンバーは、2月の会合以降、インフレ、雇用、経済活動に関するデータが総じて予想を上回ったことに着目、その後の銀行セクターの動向が、経済・政策の見通しと、その見通しを取り巻く不確実性についての見方に影響を与えたことにも留意した。そのうえで、今年の実質GDPが長期トレンド率を大きく下回るペースで成長すると予想した。インフレ率が許容できないほど高いままであることから、総需要と総供給のバランスを改善し、インフレ圧力を低下させるためには、実質GDPがトレンドを下回る成長率を維持する期間が必要であると想定した。銀行セクターの動向を織り込んだ後、参加メンバーは政策金利の見通しが12月からほぼ横ばいとなったことを示唆した。
- FRBが他の政府機関と協調して実施した措置や、米国外の銀行・金融ストレスに対処するために当局が実施した措置が、銀行セクターの状況を落ち着かせるのに役立ったが、こうした状況がどのように変化するかには大きな不確実性があることを認識した。
- 家計部門では、実質消費支出のデータで1月と2月に支出 の回復を示したことに着目した。この回復は、好調な雇用の増加、実質可処分所得の増加および、家計がパンデミック時に蓄積した余剰貯蓄を使い続けていることに起因するとみられた。また、今年に入ってから異例なほど気温が高く、季節調整も難しかったことが、今回の支出増につながった可能性が高いと指摘があった。最近の銀行セクターの動向とそれに伴う不確実性の高まりが、消費者心理に重くのしかかり、消費者の警戒感が強まることで消費が抑制される可能性があるとの指摘もあった。
- 企業部門では、企業の設備投資の伸びは、これまで維持されてきた引締め政策を反映し、抑制されているとの観測があった。最近の銀行セクターの動向による信用状況の引き締めが、投資支出をさらに圧迫すると予想した。さらに、銀行セクターの動向は、景況感を悪化させ、企業の警戒心を高め、新規雇用の意欲を減退させる可能性がある。
- 労働市場は依然として非常にタイトであり、雇用は1月と2月に力強いペースで増加、失業率は低水準にとどまった。退職率のさらなる低下、労働力率全体の上昇、初老期参加率のパンデミック前の水準への回復など、労働市場における需要と供給のアンバランスに改善の兆しがある。さらに、労働需要の緩和と労働供給の増加が見られる中、賃金の伸びは徐々に鈍化しているように見受けられる。参加メンバーは、適切な金融政策の下で、労働市場の需給状況が時間の経過とともに良好なバランス状態になり、賃金と物価の上昇圧力が緩和されると予測した。
- インフレ率は当委員会の長期目標である2%を大幅に上回っており、参加メンバーはインフレ率が容認できないほど高いことに同意した。参加者は、12カ月ベースで見ると、サプライチェーンが改善し、コア財価格インフレ率は低下したが、低下ペースは鈍化しており、ディスインフレのプロセスが依然として不確実であることが強調された。銀行セクターの動向がインフレに及ぼす潜在的な影響についての議論では、信用状況の引き締めが総需要を圧迫し、ひいてはインフレ圧力の抑制につながる可能性があるが、そのような効果の大きさは非常に不確実であるとの観測があった。
- 最近の銀行セクターの動向により、経済活動、労働市場、インフレに関する見通しについて、既に不確実性がさらに高まっているとの観測があった。参加メンバーは、経済活動の下振れリスクとして、銀行が予想以上に信用供給を減らす可能性を指摘し、それが経済活動を大きく抑制する可能性があるとの見方を示した。また、下振れリスクの要因としてロシアのウクライナに対する戦争が激化する可能性を挙げた。一方で、インフレの上振れリスクとして、例えば労働需要が意外に底堅いことなどから、予想以上に物価圧力が持続する可能性を挙げた。インフレの下振れリスクの要因として銀行が予想以上に信用供給を減らした場合、経済活動や雇用が抑制され、インフレに下押し圧力がかかる可能性があることが指摘された。
■金融政策決定に関する議論
- 参加メンバーは、インフレ率が当委員会の長期目標である2%を大きく上回っていることと、最近のインフレに関するデータからは、長期的なインフレ率を2%に戻す道筋を示すような十分なペースで低下している兆候はほとんど見られないことに同意した。また、銀行セクターの最近の動向は、家計や企業の信用状況の引き締めをもたらし、経済活動、雇用、インフレに影響を与える可能性が高いが、これらの影響の程度は極めて不確実であることに留意した。このような背景から、全ての参加メンバーは、フェデラルファンド金利の目標レンジを25ベーシスポイント引き上げて4.75~5%にすることが適切であることに合意した。また、すべての参加メンバーは、以前に発表した「FRBのバランスシート縮小計画」に記載されているように、FRBの証券保有高を削減するプロセスを継続することが適切であることに合意した。
- 複数の参加メンバーは、今回の会合で目標レンジを据え置くことが適切かどうかを検討し、そうすることで最近の銀行セクターの動向や金融政策の累積的な引き締めの金融・経済的影響を評価するための時間をより多く確保できると指摘した。しかし、FRBが他の政府機関と協調して行った措置が銀行セクターの状況を落ち着かせ、経済活動とインフレに対する短期的なリスクを軽減するのに役立っていることも確認、その結果、これらの参加者は、インフレ率の上昇、最近の経済データの堅調さおよび、インフレ率を当委員会の長期目標である2%まで低下させるというコミットメントから目標レンジを25bp引き上げることが適切と判断した。
- 一部の参加メンバーは、持続的に高いインフレ率と最近の経済データの強さを考慮すると、銀行セクターにおける最近の問題がなければ、今回の会合でターゲットレンジを50bp引き上げることが適切であったと考えたと指摘した。しかし、銀行セクターの動向が金融環境を引き締め、経済活動やインフレを圧迫する可能性があるため、参加者は今回の会合で目標レンジをより小幅に引き上げることが賢明であると判断した。
- 参加メンバーは銀行セクターについて最も重大な問題は、リスク管理が不十分な銀行は少数に限られているようであり、銀行システムは健全で弾力的であることに留意し、FRBが銀行部門のストレスに対処し、将来の金融安定リスクを軽減するためにミクロプルーデンスとマクロプルーデンスの規制・監督手段だけでなく、流動性と最後の貸し手という手段を用いるべきであることを強調した。参加メンバーは、最近の銀行の動向が、雇用とインフレの見通しおよび、その見通しを取り巻くリスクに影響を与えることを前提に、当委員会の金融政策決定に影響を与えることに合意した。
- 金融政策の見通しの議論の中で、インフレ率が依然として高すぎること、労働市場が依然としてタイトであることを確認、その結果、インフレ率を長期的に2%に戻すために必要な金融引締政策スタンスを達成するためには、いくつかの追加的な金融政策固めが必要である可能性があると想定される。
- 不確実性の高い経済見通しに鑑み、参加メンバーは入ってくる情報を注意深く監視し、将来の金融政策決定への影響を評価することの重要性を強調した。信用状況や信用フローの変化、より広範な金融情勢の変化に関する情報を精査し、経済活動、労働市場、インフレへの影響を評価することが特に重要であると指摘した。複数の参加メンバーが、不確実性の高い経済見通しを踏まえ、金融政策の適切なスタンスを決定する上で、柔軟性と選択性を維持する必要性を強調した。
(H・N)
■関連記事
利上げ停止時期、間近か=FOMCの経済見通し・FF金利予想
継続的利上げが適切とは言えない=パウエル議長FOMC記者会見冒頭スピーチ
3月22日、FRB声明=0.25%の利上げを決定
■関連情報(外部サイト)
FOMC議事録(原文、FRB)