トランプ関税「腰据えて対応を」=米経済にも大きな不利益―黒田前日銀総裁インタビュー 2025年05月07日 14時31分

黒田東彦前日銀総裁は7日までに、時事通信の単独インタビューに応じた。巨額貿易赤字の削減を目指すトランプ米政権の高関税政策について「米国の利益にもならない。インフレが進んで消費も落ち込む。2025年全体でマイナス成長に陥るとの見通しもある」と批判。日本政府は関税措置の撤廃を求めて交渉を続けるが、黒田氏は米関税政策が二転三転することを踏まえ「あまり片言隻句におびえず、じっくり腰を据えて対応した方がいい」と強調した。
トランプ政権は鉄鋼・アルミニウム、自動車への追加関税のほか、相互関税の一律10%分を発動。金融市場の混乱を受け、相互関税の国・地域別の上乗せ分は一時停止した。黒田氏は「トランプ氏が何をするのか分からないので、米国企業は設備投資を手控えており、中長期的に米国の成長率を下げる可能性がある」と指摘。「秋口には米インフレ率が4~5%に再び上昇し、消費者の不満が高まるだろう」と述べた。
国際通貨基金(IMF)は4月公表の最新の世界経済見通しで、25年の日本の成長率を0.6%と、1月時点から0.5ポイント下方修正した。黒田氏は「最大の輸出相手国である米国の成長率が落ちることで、日本にも悪影響が及ぶ」と言及。ただ、米国と中国がお互いに100%超の関税をかけ合う状態では「日本製品への代替需要が生まれる。米関税で大打撃かというとそうではない」との見方を示した。
金融市場では、貿易不均衡を解消するためドル高是正を目的とした「第2プラザ合意」が行われるとの観測がくすぶる。1985年の「プラザ合意」では、日米英仏と西ドイツ(当時)の先進5カ国(G5)が協調して為替介入し、ドル安に誘導した。
合意の再現について、黒田氏は「全くあり得ない」と断言。トランプ政権の政策に対する不信感から米国の株と為替、債券が同時に売られる「トリプル安」に見舞われたため「今の時点でドル安にする話は出てこない」とした。さらに「将来的に話が出るかもしれないが、ユーロ圏20カ国がまとまって、合意に乗ってくる可能性はない」とも述べた。
黒田氏から金融政策のかじ取りを引き継いだ植田和男日銀総裁は、昨年3月のマイナス金利の解除後、昨年7月と今年1月にも利上げを決定した。
金融政策の正常化について、黒田氏は「適切だ」と評価し、「賃金も物価も上がらないという『ノルム(社会通念)』は壊れて、(デフレ脱却の条件となる)長期インフレ期待の2%定着が近づいている」と述べた。ただ米関税政策で不確実性が高まっているため、「半年に1度の利上げペースは続けられなくなるかもしれない」とした。