米サウジ、打算入り交じる「蜜月」=取引重視の裏に対米不信 2025年05月13日 20時31分

【リヤド時事】トランプ米大統領は2期目初の本格外遊で、サウジアラビアの実権を握るムハンマド皇太子と「蜜月関係」を演出した。対米投資などで「ディール(取引)」をまとめて外交成果をアピールしたいトランプ氏と、米国との関係強化を狙うサウジの思惑が一致した形だが、背景には自国優先の「トランプ外交」に対するサウジ側の不信も浮かび上がる。
13日午前、大統領専用機からトランプ氏が姿を現すと、タラップ下で待ち構えていた皇太子は笑顔で出迎えた。バイデン前大統領が2022年7月にサウジを訪れた際は空港に出向くことはなかっただけに、トランプ氏に対する「厚遇」を印象付けた。
トランプ氏は政権1期目の17年5月にもサウジを訪れ、巨額の対米投資や米国製武器購入を取り付けた。2期目に入り、関税などを巡って厳しい対応を迫る日本や欧州への早期訪問が困難な事情もあり、密接な関係を築いたサウジ王室を頼りに成果を急いだ格好だ。
元駐イスラエル米大使でシンクタンク大西洋評議会のダニエル・シャピロ特別研究員は、米国が貿易黒字を記録し、対米投資も見込めるサウジをトランプ氏が「協力できるパートナー」と見ていると説明。「個人の経済的利益と国益を絡めた国家運営を行うサウジ指導者と(トランプ氏は)共通の思考様式を持つ」と親和性の高さを指摘する。
だが、皇太子の頭をよぎるのは19年9月に起きたサウジ東部の石油施設へのドローン攻撃の苦い記憶だ。イランの関与が疑われたが、大規模な被害を受けたにもかかわらず、中東での混乱拡大を嫌うトランプ氏がイランへの軍事行動をためらい、サウジ側が不信感を募らせた。
サウジは23年3月、断交していたイランとの外交関係を中国の仲介で修復した。トランプ、バイデン両政権下で中東への関与を弱める米国をけん制する多角的な独自外交に踏み切った。
トランプ氏は2期目にイスラム教スンニ派の盟主を自任するサウジとイスラエルの国交正常化を実現し、自身の「外交レガシー(政治的遺産)」とする長期的な目標がある。一方、皇太子は経済発展や脱炭素を念頭に米国との防衛協定や民生用原子力分野での協力を引き出す狙いだ。サウジは「実利」追求にはやるトランプ氏を逆手に取って自国の国益追求を図ろうとしている。