【2025年4月30日~5月1日】金融政策決定会合における主な意見(要約) 2025年05月13日 14時50分

金融政策決定会合における主な意見(2025年5月13日)

1.金融経済情勢に関する意見

(1)経済情勢

  • わが国経済は、一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復している。先行きは、各国の通商政策等の影響を受けて成長ペースは鈍化するものの、その後は海外経済が緩やかな成長経路に復していくもとで、成長率を高めていくとみられる。
  • 不確実性の増大が設備投資や家計消費に与える影響、米国への輸出量の減少や採算の悪化、世界的な景気悪化や円高が対世界輸出に与える影響、株価下落の逆資産効果などの負の需要ショックが見込まれる。資源価格下落等に伴う正の供給ショックも見込まれるが、需要ショックよりは小さい。全体としては、米国の関税政策は、わが国の経済・物価のいずれにも下押し方向に働く。
  • これまでの見通しは、米国の関税政策によって、大きく揺るがされている。米国の関税引き上げは、わが国の経済と物価を下押しする。それは、わが国の輸出を下押しするだけでなく、貿易の縮小を媒介として、世界経済全体を下押しするためである。
  • ①米国の関税政策の着地と②それへの企業の対応は二重の意味で流動的であり、現時点での見通しは仮置きに止まる。今後の推移次第で、見通しには大きな修正があり得る。
  • 米国では、新政権発足以降、経済成長にマイナスに働く関税等の政策が先行しているが、今後、減税等の政策に転じた場合、成長率上振れもあり得る。
  • 相互関税は世界各国に賦課されるため、日本企業の相対的な競争条件悪化には繋がり難く、収益減少が限られる可能性もある。
  • 米国の関税引き上げによる影響について不確実性が高い状況だが、高関税が長期化すれば、直接的影響を受ける輸出企業を中心に、事業再編やバリューチェーン強靱化のための取引先の選別、多層化した下請構造の圧縮、生産拠点の米国シフト等が進む惧れがあり、これが、雇用の7割を占め経営体力が比較的弱い中小企業に影響を及ぼす懸念がある。
  • GDPに占める輸出の割合等をみると日本の貿易依存度はそこまで高くないことから、米国の関税政策の動向だけでなく、国内要因にも注目して、冷静に金融経済の状況判断をしていきたい。
  • 今のところ、国際金融資本市場で顕著な dash for cash の動きは見られないが、引き続きノンバンク金融仲介機関(NBFI)の動向などを注視する必要がある。

(2)物価

  • 消費者物価の基調的な上昇率は、成長ペース鈍化などの影響を受けて伸び悩むものの、その後は、成長率が高まるもとで徐々に高まっていくと予想され、見通し期間後半には「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移すると考えられる。
  • 物価見通しについては、展望レポートに前提として記載された関税政策等の影響のもとでも、現時点では、引き続き賃金の伸びと労働需給の引き締まりに支えられ、振れを伴いつつも、見通し期間の後半にかけて、「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移すると想定している。
  • 米国の関税政策は、わが国経済を貿易面・コンフィデンス面から下押すと考えられる。物価面では、経済の減速とサプライチェーンの混乱という上下双方向の要因があるが、いずれも賃金面ではマイナス要因となりうるため、基調的な物価には下押し要因となる可能性が高い。
  • 物価は2027年度まで2%近傍を維持する見通しであり、更に、グローバルサプライチェーンの混乱等の物価上振れリスクがある点に留意が必要である。
  • 関税ショックは短期的な価格ショックと考えることもできるので、長期的には実質的な効果を持たないという理論上の結論はありうる。したがって、現時点では、やや長い目でみれば、米国の関税政策とその不確実性が、基調的な物価上昇率や潜在成長率に影響を与えるとはみていない。

2.金融政策運営に関する意見

  • 経済・物価の見通しが実現していくとすれば、経済・物価情勢の改善に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになる。そのうえで、こうした見通しが実現していくかは、不確実性がきわめて高いことを踏まえ、予断を持たずに判断していくことが重要である。
  • 見通しは2%の「物価安定の目標」を実現する姿となっており、実質金利は大幅なマイナスであるので、利上げしていく方針は不変である。その際、前提となる関税交渉の帰趨を含めて、不確実性がきわめて高い中で、見通し自体が上下に変化しうるため、見通し実現の確度、リスクを見極めていく必要がある。
  • 経済・物価の見通しを巡る不確実性は高く、その確度は従来に比べて高くはない。先行き、見通しの上振れ・下振れ双方の可能性を点検したうえで、適切に政策を運営していく必要がある。
  • 米国の関税政策の展開がある程度落ち着くまでは様子見モードを続けざるを得ない。
  • 米国の関税政策により、日本企業は行き過ぎたコストカット、賃上げ・投資の抑制といった縮み志向や産業の空洞化に陥る可能性も考えられ、積極化していた企業マインドや倒産の傾向に変化がないか注視する必要がある。日本経済への影響を慎重に見極める必要があるため、現状の金融政策を維持することが適当である。
  • 米国経済減速から利上げの一時休止局面となるが、米国の政策転換次第で追加的な利上げを行うなど、過度な悲観に陥ることなく、自由度を高めた柔軟かつ機動的な金融政策運営が求められる。
  • 「物価安定の目標」の実現に向けて最も重要なのは、①企業の賃金・価格設定行動、②企業や家計の予想インフレ率がどうなるかであるが、以前の賃金・物価が上がりにくい状況に戻っていくリスクは小さい。このため、2%の「物価安定の目標」に向けて上昇してきた基調的な物価上昇率が下方に屈折してしまう可能性は小さい。
  • わが国では金利の下限制約から脱却して1年以上経つが、足もとにおける経済と物価はしっかりとしており、こうした中、現在の金融政策スタンスは、とても緩和的な状況にある。
  • どのような見通しを立てたにせよ、米国の関税政策の展開によって、良い方にも悪い方にもすぐに覆る可能性がある。それは、日本銀行の政策経路が今後いつでも変わり得ることを意味する。その点、当面、市場とのコミュニケーションにおいて十分に率直であるべきである。
  • 市場は、日本銀行の従来からの基本方針を内外の情報にあてはめて、日本銀行からの直接的な示唆を俟つことなく、利上げ時期についての見方を形成し、自ら修正し続けている。こうした状況を維持できるような情報発信の仕方を続けることが望ましい。
  • 4月の市場急変時に、超長期金利の大幅上昇など国債市場で年限別の分断が生じた。国債買入れの減額計画の中間評価に向け、年限別の需給動向や流動性、業態毎に異なる見方を丁寧に確認することが重要である。
  • 超長期債について、金利の先高観が強く市場が神経質な状況では、投資家は投資に慎重にならざるを得ない。中央銀行が市場を十分に考慮することは当然であるが、一方で、その時々の市場の意見に反応しすぎると、その柔軟性が却って予見性を低下させ、市場の不確実性をより高める可能性がある。日本銀行が市場に不確実性を招くことは極力避けるべきである。

3.政府の意見

(1)財務省

  • 政府は、米国との協議状況や、関税措置による輸出産業、関連する中小企業や地域経済、さらには国民生活への影響をよく注視し、資金繰り支援など必要な支援に万全を期する。
  • 日本銀行には、政府との緊密な連携のもと、内外の経済情勢等を十分に注視しつつ、2%の物価安定目標の持続的・安定的な実現に向けた適切な金融政策運営を期待する。その上で、情報発信を含め、しっかりと金融資本市場とコミュニケーションを図っていただきたい。

(2)内閣府

  • 日本経済は、緩やかに回復しているが、米国の通商政策等による不透明感がみられ、また、物価上昇の継続が個人消費に及ぼす影響等とあわせて一層注意が必要である。
  • 政府は、「米国関税措置を受けた緊急対応パッケージ」に沿って、必要な支援に万全を期すとともに、賃上げの流れを中小企業や地方経済に広げる政策を推進する。
  • 日本銀行には、政府と緊密に連携し、2%の物価安定目標の持続的・安定的な実現に向けて、適切な金融政策運営を期待する。

以上


[ゴールデン・チャート社]

■関連リンク

経済物価情勢の展望、総裁定例記者会見の要約記事などの一覧はこちら

主要各国の金融政策スケジュール

■参考資料(外部サイト)

金融政策決定会合における主な意見(2025年4月30日、5月1日開催分)(日本銀行)

金融政策決定会合の運営(日本銀行)