インバウンド完全復活に期待=人手不足、観光公害の懸念も―中国訪日旅行解禁 2023年08月10日

 中国政府が日本への団体旅行を約3年半ぶりに解禁した。コロナ禍前に全体の3割を占めた中国人客が本格的に日本に戻ると見込まれ、インバウンド(訪日客)完全復活への期待が高まる。ただ、各地で深刻化する宿泊業などの人手不足やオーバーツーリズム(観光公害)に拍車が掛かると懸念する声も出ている。
 岸田文雄首相は10日、中国からの訪日客回復への期待を記者団に表明。「わが国観光の持続可能な形での復活を目指す」と強調した。
 訪日客数はピークだったコロナ禍前の2019年に約3188万人を記録。消費額は約4.8兆円に達した。うち約959万人、約1.8兆円を占めたのが中国本土の訪日客だ。
 コロナ禍で激減した各国からの訪日客は昨秋以降、水際対策緩和や撤廃で急回復。6月は約207万人とコロナ禍前の7割の水準に持ち直したが、中国人はうち約21万人で回復率は2割強にとどまる。中国を除く回復率は9割を超えており、インバウンド復活はまさに「中国待ち」の状況にあった。
 政府は25年までに訪日客数をコロナ禍前水準に回復させる目標を掲げるが、第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは、団体旅行解禁で達成は「間近に見えてくる」と指摘。円安効果もあり、訪日消費額は「年間2兆円程度の増加が見込まれる」と分析する。政府が目指す年5兆円の早期実現も視野に入りそうだ。
 百貨店業界も「化粧品の売り上げが伸びる」(大手)などと歓迎する。ただ、コロナ禍以前に見られた中国人の「爆買い」が戻るかは不透明で、各社は需要の変化を見極め対応する構えだ。
 一方、コロナ禍で多くの離職者を出した旅館やホテル、飲食業では現在、国内外からの旅行者急増で働き手確保に苦慮している。中国人客も増えれば「人手不足は一層深刻になり、メリットを得られにくい」(大和証券)と需要取りこぼしの恐れが出ている。人件費高騰は宿泊料の値上げにもつながっており、日本人旅行者を直撃する可能性がある。
 観光公害も顕在化している。特にバスなど交通網が混雑でパンク寸前に陥る京都市では「中国の観光客が来たらもう(交通などが)ぐじゃぐじゃになる」(地元商店街関係者)と危機感は一段と強まっている。 

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ゴールデンウイーク初日、観光客でにぎわう「清水坂」=4月29日、京都市東山区
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