世界の供給網に激震=日米欧と中ロ、分断深く―「ブロック経済」再来も・ウクライナ侵攻1年 2023年02月21日

 【ワシントン時事】ロシアのウクライナ侵攻から1年。日米欧は厳しい経済制裁をロシアに科したが、ロシアは中国を後ろ盾に報復で応じた。世界のサプライチェーン(供給網)は激震に見舞われ、物価高が定着する「ニューノーマル(新常態)」を招いた。先進7カ国(G7)の議長国を務める日本は、国際社会の深刻な分断への対応策を示す重責を負う。
 ◇世界7割に影響
 「G7の結束と協調が世界の動向を左右する」。岸田文雄首相は1月、日米首脳が連携して国際経済秩序を守り抜くと宣言した。念頭にあるのは、信頼できる同盟国や友好国で経済圏をつくる「フレンドショアリング」と呼ばれる米独自の構想。安全保障を脅かす中ロを供給網から締め出す狙いだ。
 これに対し、ロシアは石油や天然ガス、小麦といった重要物資の主要産出国として、輸出を制限する報復をちらつかせ、価格高騰という制裁の「返り血」を警告。一方で中国への依存を強め、戦闘機にも使われる半導体の輸入額は前年比35%増となるなど、制裁をかわしている。
 ウクライナ危機では、世界の7割近くに当たる130カ国・地域の企業760万社以上が供給網の障害に巻き込まれたという。米ニューヨーク連邦準備銀行が算出した世界供給網の混乱の程度を示す「グローバルサプライチェーン圧力指数」は、2022年に年間平均で過去最高の2.1を記録。東日本大震災が起きた11年比で7倍、新型コロナウイルス禍の20年比でも1.4倍に達した。
 ◇物価高は「新常態」
 世界では東西冷戦時代に異なる陣営に割れた「ブロック経済」の再来が現実味を帯びる。企業が安い製品を求めて調達先を広げたグローバル戦略は曲がり角を迎え、「世界の工場」を担ってきた中国や資源大国ロシアから離れる動きが目立つ。
 供給網の再編が進む中で、今後の焦点はアフリカや中東、アジア、南米を含む「グローバルサウス」に属する途上国・新興国の動向だ。世界のGDP(国内総生産)に占めるG7の割合が45%程度まで下がる中、岸田首相は「グローバルサウスから背を向けられれば少数派となる」と危機感をあらわにする。
 ただ、「脱・中ロ依存」を進める日米欧の外交戦略は、供給網の目詰まりを引き起こし、インフレに拍車を掛けている側面もある。国際通貨基金(IMF)によると、供給網が機能不全に陥れば世界GDPの最大7%が失われる。日本のGDPを上回る7兆ドル(約940兆円)が吹き飛ぶ計算だ。
 米ピーターソン国際経済研究所のアダム・ポーゼン所長は「世界経済の分断とインフレは『新常態』だ」と強調。中ロをめぐる対立の長期化により、各国は物価高を受け入れざるを得ない現実に直面すると警鐘を鳴らした。 

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ロシアの港=2022年9月、極東ウラジオストク(EPA時事)
ロシアの港=2022年9月、極東ウラジオストク(EPA時事)

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