金利上昇が財政圧迫=緩和修正、待ち受ける難路―政府・日銀 2023年02月15日

 政府は日銀の黒田東彦総裁の後任に経済学者の植田和男氏を起用する人事案を国会に提示した。日銀の新体制を待ち受ける最大の難題は、約10年間の「異次元緩和」がもたらした財政や金融のゆがみの修正だ。日銀による巨額の国債購入に支えられ政府債務は膨張した。今後日銀が金利の上昇容認に転じれば、国債利払い費が増加し、先進国で最悪の水準にある財政をさらに圧迫するのは必至だ。
 「日銀の国債購入に支えられ、費用対効果の検証が十分になされないまま財政支出が拡大し、構造改革や規制改革は先送りされた」。1月下旬、産学の有識者で構成する「令和国民会議(令和臨調)」は、緊急提言で異次元緩和の長期化がもたらした財政規律の緩みを厳しく批判した。
 普通国債発行残高は、黒田総裁就任直後の2012年度末は約705兆円だったが、22年度末には約1043兆円と1.5倍に膨らむ見通しだ。社会保障費の増加に加え、新型コロナウイルス禍や物価高への対応で急拡大した。
 毎年度の国債利払い費は、日銀が超低金利を実現した結果、8兆円台から7兆円台前半に減少。ただ、足元の市場での金利上昇を受けて23年度には8.5兆円と13年4月の異次元緩和導入後で最高となる見通し。名目成長率3%を前提とした財務省の試算では、26年度に11.5兆円に膨らむ。
 大和総研の末吉孝行シニアエコノミストは、日銀が利上げにかじを切れば、「国債の借り換えが進むにつれて影響が広がり、将来的には利払い費が急増する恐れがある」と指摘。31年度以降に30兆円程度(年度ベース)に達する可能性があると試算している。
 財政支出拡大が経済成長につながれば、税収が増えるので財政への悪影響は軽減される。だが、10年前と比較して名目GDP(国内総生産)は1割程度しか伸びていない。
 岸田文雄首相は15日の衆院予算委員会で、「専門的、中立的な知見を有する学識経験者なども参加する形で、絶えず政策の検証を行っている」と強調した。だが、財政が悪化すれば金利が上昇するという正常な市場機能が回復してきたときに、政府の財政運営が市場の信認を保てるのかどうかは不透明だ。 

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