アベノミクス巡り揺れた人選=有力候補は固辞、大物学者で決着―日銀総裁 2023年02月10日

 岸田文雄首相は日銀の次期総裁に元審議委員で経済学者の植田和男氏を起用する人事案を固めた。安倍政権の経済政策「アベノミクス」の中核を担った異次元の金融緩和策をどう継承し、どう修正するのか。有力とされた日銀出身の候補者が固辞する中で人選は最後まで揺れ、大物学者での決着となった。
 「黒田東彦総裁にコミットしすぎたから」。政府が雨宮正佳副総裁に次期総裁への就任を打診したと一部で報じられた6日。雨宮氏は周囲に就任を固辞し続ける理由を漏らした。
 次期総裁の人選を巡っては、政府は当初から日銀出身者を有力視してきた。「ここまで複雑になった金融政策を解きほぐせるのは日銀出身者しかいない」(政府関係者)。雨宮氏のほか、中曽宏前副総裁らの名前が取り沙汰されていた。
 背景には、黒田氏が進めた異次元緩和に限界が見えてきたことがある。世界的にインフレが広がる中、主要国・地域の中央銀行で日本だけが緩和政策を続けたことで、昨年は急速な円安が進行。緩和に固執する硬直的な金融政策が物価高に拍車を掛けたとの批判も出ていた。
 ただ、緩和策の修正は事実上の金融引き締めとなりかねない。「これからの5年間、金融市場や景気に悪影響が出れば批判されるのは日銀総裁だ」(日銀関係者)。日銀出身者以外に引き受け手はいないとの見方が広がった。
 その上で問われたのが、アベノミクスとの距離感だ。岸田首相は昨年3月の日銀審議委員人事で、積極緩和を唱える「リフレ派」の起用を見送り、緩和路線修正にかじを切るかに見えた。
 もっとも、岸田政権の支持率はその後低迷。政権基盤維持には、自民党の最大派閥「安倍派」への配慮は避けられない情勢となった。世界経済の減速懸念が強まる中、金融市場への悪影響回避という面でも、明らかなアベノミクス修正は選択できない状況だった。
 こうした中、有力候補とされた雨宮氏や中曽氏は昨年から就任に難色を示し、最後まで固辞。いずれも黒田氏の異次元緩和を支えたことで、「正常化を進めればこれまでの政策との一貫性を問われる」(関係者)ことなどが理由とされる。
 難航を極めた人選は、理論的な金融政策運営が期待できる植田氏で決着。政府関係者は「政治的な色がなく、バランスが取れた人事になった」と評価した。急激な政策転換に踏み切ることはないとの安心感も決め手となった。 

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