製造業、国内回帰相次ぐ=円安で輸出強化の動きも 2022年10月21日

 製造業の間で生産の「国内回帰」が相次いでいる。新型コロナウイルスや米中貿易摩擦などで混乱したサプライチェーン(供給網)見直しの一環だが、急速な円安を踏まえ、輸出競争力の強化をにらんだ動きも出てきた。海外移転を進めてきた製造業にとって、歴史的な円安は大きな転機となる可能性もある。
 生活用品メーカーのアイリスオーヤマ(仙台市)は9月以降、衣装ケースなど約50種類のプラスチック製品の生産を中国から国内の複数工場に移し始めた。原油高で日本への輸送費用が膨らんでおり、「国内生産への切り替えでコストを平均2割削減できる」(同社)という。
 アパレル大手のワールドは、岡山県の工場などで生産能力を増強し、百貨店向け製品の国内生産比率を4割から9割に高める。コロナ対策のロックダウン(都市封鎖)で、海外からの輸入が滞ったためだ。JVCケンウッドは、カーナビの製造をインドネシアや中国から日本に移し、長野県伊那市にある工場の生産規模を5倍に増やす。
 これらは国内販売分を国内で生産する取り組みだが、日立製作所の子会社は冷蔵庫などの白物家電に関し、国内生産に占める輸出の割合を来年3月までに従来の2倍の10%に引き上げる方針だ。円安は海外での価格競争力強化につながり、企業収益へのメリットも大きい。政府も月内に策定する経済対策に、円安を生かして事業展開する企業への支援策を盛り込む考えだ。
 ただ、生産移転に伴う投資回収には一定の時間がかかり、その間に環境が変わるリスクもある。成長市場の海外で直接生産を行った方が有利なケースも多く、国内回帰がどこまで進むかは不透明だ。第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは「円安がもっと定着しなければ、企業が日本に投資を行う状況にはならないのではないか」との見方を示している。 

特集、解説記事