インド、中国との対立再燃=米国への接近で「自信」―軍高官会談物別れ 2021年10月14日

 【北京、ニューデリー時事】中国とインドの国境地帯に再び緊張が走っている。中印両軍が小競り合いを起こし、10日に開かれた国境問題をめぐる軍高官会談は物別れに終わった。インドが米国に接近し強気に転じていることが、対立再燃の背景にあるという見方も浮上している。
 中印は3000キロ以上の未画定国境を抱え、事実上の国境となる実効支配線をはさみ対峙(たいじ)してきた。両軍は昨年6月、インド北部ラダックの国境地帯の渓谷沿いで衝突。45年ぶりに双方に死者が出た。両軍はその後もヒマラヤ山脈の国境地帯でにらみ合いを続け、今年2月に一部地域で撤退を始めた。
 だが、中印メディアによると、先月下旬になってインドが実効支配し中国も領有権を主張するアルナチャルプラデシュ州タワン近郊で、両軍の小競り合いが発生した。中国軍兵士がインド側に一時拘束されたという情報も流れ、英字紙チャイナ・デーリーが中国軍関係者の話として「完全なでっち上げ」と報じる一幕もあった。
 インドのナイドゥ副大統領は今月8日、同州を空軍機で訪問し、中国をさらに刺激。中印両軍は10日、にらみ合いが続いている地域からの撤退について軍高官会談を開いて協議したが、「インド側が不合理かつ現実離れした要求を掲げた」(中国軍西部戦区)「中国側はいかなる前向きな提案もしなかった」(インド外務省)と非難し合う結果に終わった。
 中国ではインドの一連の対応について、同国と日米、オーストラリアの4カ国連携枠組み(通称クアッド)と結び付ける論調が出ている。日米豪印は14日までの日程で合同海上演習「マラバール」をインド東方のベンガル湾で実施し、軍事面で存在感を誇示。中国紙・環球時報は、クアッド参加がインドに「これ以上ない自信」を与え、軍高官会談に影響したという専門家の見解を伝えた。
 中国の疑念を裏付けるように、インドでもクアッド重視の機運が高まっている。ただし、インド側で指摘されるのは、対中包囲網の一環として米英豪が立ち上げた安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」の影響だ。
 印オブザーバー研究財団のハーシュ・パント研究主任はヒンドゥスタン・タイムズ紙への寄稿で、「米国がAUKUSを特別視してクアッドが希薄化するとインドは懸念している」と分析。こうした危惧が、インド政府をクアッドへの関与強化に向かわせている可能性があると解説した。 

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