金融所得、税率引き上げ議論へ=格差是正狙い、株価に悪影響も 2021年10月08日

 政府は2022年度の税制改正で、株式の配当や譲渡にかかる金融所得課税の見直しを議論する見通しだ。金融所得が多い富裕層は、年間所得が1億円を超えると所得税の負担率が下がる。格差是正を掲げる岸田文雄首相は、この「1億円の壁」を打破する考えだが、税率を引き上げれば株価に悪影響を及ぼす懸念がある。
 給与所得課税の税率は、所得税と個人住民税を合わせて最大55%で、所得が多いほど高い累進制となっている。一方、金融所得への課税は一律20%。この結果、年間所得1億円を境に、所得に占める金融所得の割合が高くなるほど所得税の負担率が下がる構造となっている。
 財務省によると、19年の所得税負担率は、所得額が5000万円超~1億円の層でピークの27.9%。この先は比率が徐々に低下し、50億円超~100億円では16.1%まで下がる。
 税制の見直しでは、金融所得に対する一律の税率引き上げや、金融所得に応じた引き上げなどが想定される。財務省は、少額投資非課税制度(NISA)があるため、見直しによる個人投資家への影響は小さいと見ている。
 ただ、一律の引き上げになった場合、所得が少ない若年層などには打撃となり、株式投資を控える可能性がある。政府が進める「貯蓄から投資」の動きにも逆行。また、そもそも「日本は米国ほど富裕層が多くない」(財務省幹部)ため、課税強化による税収の増加は限定的だとの声もある。
 最近の株価下落に関しては、岸田首相が金融所得課税の見直しに言及したことが影響している側面もありそうだ。鈴木俊一財務相は5日の記者会見で、課税の見直しについて「高額所得者が守られ過ぎているという意見と、投資が抑制されるという両面の意見がある」と述べ、与党の議論を注視する考えを示した。 

特集、解説記事