揺らぐ米の経済覇権=中国台頭、新たな試練に―「ニクソン・ショック」50年 2021年08月13日

 【ワシントン時事】1971年8月、当時のニクソン米大統領が基軸通貨ドルと金の交換停止を電撃発表してから15日で50年。同年7月の中国訪問表明と共に「ニクソン・ショック」と呼ばれ、歴史の転換点となった。主要国の通貨は固定相場制から変動相場制へ移行し、グローバル金融の時代が到来。ニクソン氏が門戸を開放した中国は、今や米国の覇権に挑むまでに大国化した。半世紀を経て、国際経済秩序は新たな試練に直面している。
 「自国の利益に注意を払うべき時だ。国際的な投機からドルを守る」。ニクソン氏は米経済が脅かされていると演説で強調。第2次世界大戦後の復興を支えた「金・ドル本位制」を破棄し、輸入品に10%の課徴金を導入すると通告した。44年に確立した米国中心の国際経済枠組み「ブレトンウッズ体制」に自ら区切りを付けた形だ。
 国際収支の赤字、インフレ懸念、ドルの信認低下―。ニクソン政権の経済政策に関わった米エール大経営大学院名誉学部長のジェフリー・ガーテン氏は、当時の米国は「三重苦」に見舞われていたと振り返る。ドルと金の交換を打ち切った最大の狙いは「金のくびきを外して政策の自由度を高めること」だったという。
 戦後復興を主導していた米国を脅かしたのが日本や西ドイツ。日本は1ドル=360円に固定された有利な為替レートの恩恵を享受して高度成長を遂げた。輸出攻勢を受けた米国は約100年ぶりに貿易赤字に転落し、製造業が衰退。ベトナム戦争の泥沼化で財政赤字も拡大した。ドルが流出し、「強い米国」に陰りが見え始めていた。
 当時の局面打開の切り札が金融グローバル化と中国訪問だ。73年に主要通貨が変動相場制へ移行すると、国境を越えた資本移動が拡大。金の足かせを解かれた米国は基軸通貨ドルをばらまいて金融大国として君臨し、世界首位の経済大国の座を死守した。東西冷戦下で敵対していた中国との関係も強化し、中国の巨大市場に望みを懸けた。
 二つのニクソン・ショックから50年で世界は一変した。急激な円高で輸出主導型の日本の高度成長期が終わる一方、中国の国内総生産(GDP)は2010年に日本を抜いて世界2位に。30年ごろには米中の逆転もあり得る。危機感を抱いたトランプ前米政権は、対中政策をニクソン政権以来の「関与」から「競争」へ転換させた。
 新型コロナウイルス危機下で巨額の財政出動を続けるバイデン政権。米国は71年当時と同じ「三重苦」にあえぎ、トランプ政権による制裁関税を引き継いで保護主義に傾く姿も重なる。バイデン大統領は議会演説で「米国を築いたのはウォール街ではない。中間層と労働組合だ」と語り、金融頼みの成長戦略に限界があると認めた。だが、中国の猛追を振り切る新たな切り札は見いだせていない。 

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ニクソン元米大統領(AFP時事)
ニクソン元米大統領(AFP時事)

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