公平負担、法人税改革迫る=問われる米国の実行力―G20 2021年07月12日

 【ワシントン、シリコンバレー時事】イタリアで開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は、多国籍企業の課税逃れを防ぐ新たな国際ルールで大枠合意した。経済成長に必要な財源の公平負担という共通の課題が各国の歩み寄りを促した。合意を主導した米国は、労働者と企業の公平な税負担の改革へ率先した取り組みが問われる。
 「成功した企業が公平に負担し、全員が利益を受ける社会保障への投資に貢献することが重要だ」。イエレン米財務長官は、大枠合意の意義を強調した。「大きな政府」の下で2兆ドル(約220兆円)規模のインフラ投資計画を掲げるバイデン米政権にとり、法人税収の確保は最重要課題だ。
 米国は1980年代、企業活性化による成長を目指し、法人税の減税を競う「底辺への競争」を仕掛けた。その結果、連邦税収に占める企業の負担割合は縮小し、逆に個人の負担は拡大した。米国が提案し、大枠合意した法人税の最低税率「15%以上」の実現で、負担の格差が広がる流れに歯止めをかけたい考えだ。
 一方、新ルールのもう一つの柱がデジタル課税。米国の巨大IT企業は工場などを必要としないため、拠点がない国は課税できない「デジタル時代の隙」を突いて高収益を上げてきた。不満を強めたフランスは独自の課税制度を導入し、各国に波及した。
 米ネット通販最大手アマゾン・ドット・コムでは、従業員が労働環境や待遇の改善を訴えて労働組合の結成を目指した。同社の株価は過去5年で5倍となり株主の富は膨らんだが、従業員への還元が不十分との批判が絶えない。デジタル課税は各国で無秩序な課税制度が広がるのを回避し、税収を各国で公平に分配することが狙いだ。
 ただ新ルール導入は容易ではない。野党共和党は最低税率引き上げに「米国が率先しても他国が追随しない恐れがある」(クラポ上院議員)と、米企業の競争力への影響を懸念。条約扱いとなるデジタル課税は上院で3分の2の賛成が必要だが、与野党勢力は拮抗(きっこう)し、承認のハードルは高い。
 米国は「公平な税負担」を訴え、国際法人課税ルールが大枠合意に達したきっかけをつくった。だが米国が実際に制度導入を実現しなければ、底辺への競争や各国独自のデジタル課税が続く恐れがあり、今回の「歴史的」な合意が宙に浮きかねない。 

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20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で、記者会見するイエレン米財務長官=11日、イタリア・ベネチア(AFP時事)
20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で、記者会見するイエレン米財務長官=11日、イタリア・ベネチア(AFP時事)

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