取締役の得意分野、一目で=「スキルマトリックス」広がる―株主総会 2021年06月28日

 上場企業の間で、取締役の得意分野が一目で分かる一覧表を開示する動きが広がり始めた。「スキルマトリックス」と呼ばれ、3月期決算企業の約15%が、今月の株主総会の招集通知に掲載した。企業統治改革が叫ばれる中、経営を監督する立場の取締役がどのような能力や経験を持っているかを明らかにすることで、取締役会が多様な視点を踏まえて運営されているとアピールしている。
 スキルマトリックスは企業経営や財務会計、営業など経営戦略の実現に必要な分野のうち、それぞれの取締役がどの分野の専門性を持つかを示した表。2008年のリーマン危機後、取締役会の監督機能強化策として米国で導入され、国内では16年ごろから活用が始まった。
 株主総会の招集通知で、取締役人事案の参考資料として示す企業が多い。三井住友信託銀行の調べでは、6月総会の招集通知に掲載したのは331社(9日現在)と、昨年の5倍超に上った。
 パナソニックは今回初めてスキルマトリックスを活用。株主への情報開示を充実させるため、「製造・研究開発・IT」「ガバナンス」など8項目を挙げ、取締役候補13人の専門性を表した。
 SOMPOホールディングスは顔写真を載せたり、男女比の円グラフを添えたりと工夫を凝らした。担当者は「ポイントとなる情報を同じページに収めれば読みやすくなると考えた」と話す。伊藤忠商事は社内役員の担当分野や社外役員の経歴、資格を盛り込み、「社内、社外が両輪となって経営監督を強化していくことを示した」と説明する。
 今回の株主総会シーズンで最も注目を集めた東芝も開示。再任が否決された永山治氏の欄には「企業経営」など3分野の能力があると記載していたが、株主の信任を得られずに終わった。
 東証が今月改訂した企業統治指針はスキルマトリックスの活用を求めており、今後、取り入れる企業はさらに増える見込みだ。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の黒田一賢シニアESGストラテジストは、導入の効果について「取締役会の多様性確保のため、幅広い人材の採用が促される」と指摘する。一方、取締役の専門性をどう判断したかの根拠を示す企業は少ないとして、開示方法を改善する必要があると訴えた。 

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株主総会招集通知に掲載された「スキルマトリックス」
株主総会招集通知に掲載された「スキルマトリックス」

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