ファスト映画、なぜ横行=無断編集、10分でネタバレ―強まる「時間効率」重視 2021年06月26日

 映画を無断で10分間程度に編集し、結末までの筋立てをウェブ上で明かす「ファスト映画」の被害が深刻化している。複数の動画が計8000万回再生されたアカウントもあり、投稿者は多額の広告収益を得ていたとみられる。2時間前後の作品を、ごく短時間で楽しみたい人がこれほど多いのはなぜか。背景を探った。
 宮城県警は23日、動画投稿サイト「ユーチューブ」にファスト映画を投稿していた男女3人を著作権法違反容疑で逮捕した。ファスト映画の摘発は国内初。著作権者でつくる「コンテンツ海外流通促進機構」が、ユーチューブ本社がある米国の裁判所に情報開示を求め、投稿者を特定した。
 同機構によると、こうした動画の投稿者は昨春ごろから増え、確認できただけでも55のアカウントが存在した。逮捕報道後、ほとんど削除されたが、それまでは視聴者から「10分で面白さが伝わった」「次はこの作品をまとめてほしい」などと好意的なコメントが相次いでいた。
 メディア消費の動向に詳しい電通メディアイノベーションラボの天野彬主任研究員は「今は処理し切れないほど多くのコンテンツが身の回りにあふれており、人々は限られた余暇をどれだけ効率よく楽しむかという『タイムパフォーマンスの良さ』を重視している」と指摘。面白くない映画にお金と時間を消費するくらいなら、無料のファスト映画をたくさん見た方が得だという心理が背景にあり、新型コロナウイルス禍による巣ごもり傾向も影響したとの見方を示す。
 県警の捜査に協力した中島博之弁護士は、視聴傾向を学習するユーチューブの「おすすめ機能」によって、予告編などを見た映画ファンに違法なファスト映画が広められたのではないかと推測。「若い世代がこうした違法コンテンツの視聴に慣れてしまうと、著作物に対価を払う価値観や産業そのものが破壊されてしまう」と警鐘を鳴らした。 

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