「情報の壁」規制で攻防=銀行と証券、緩和議論が本格化―求められる顧客目線 2021年05月24日

 同じグループ内の銀行と証券会社が、企業の合併・買収(M&A)といった顧客情報を共有することを原則禁じる「銀証ファイアウオール(FW)規制」をめぐる議論が本格化している。傘下に証券会社を持つメガバンクは規制の緩和・撤廃を強く主張、対する証券界は維持を訴える。しかし企業などに与える影響は十分に検討されておらず、顧客目線での議論が求められる。
 日本のFW規制は、銀行と証券の子会社方式による相互参入が解禁された1993年、銀行が融資を通じて強い影響力を企業に行使するのを防ぐ目的で導入された。グループ内の銀証の情報共有は原則禁じられているが、企業の事前同意があれば認められている。
 ただ、メガバンクは規制の撤廃により、融資と社債発行を組み合わせた資金調達などより多様な提案が可能になり、企業の競争力強化につながると主張。政府が昨年まとめた成長戦略に検討課題として盛り込まれ、金融庁の審議会で議論が進む。
 焦点の一つになっているのが、融資の停止や金利引き上げを交渉材料に証券取引を迫るといった、銀行による「優越的地位の乱用」への懸念だ。日本は相対的に銀行の力が強く、顧客である企業や個人には、銀行がこれまで以上に情報を握ることへ警戒感もくすぶる。
 全国銀行協会は「各行がルールを整備し、乱用が生じないよう厳格に運用している」と説明する。しかし、ある証券会社幹部は、過去の新規株式公開(IPO)の幹事社選定をめぐり、「銀行系証券会社が同一グループの銀行の融資を盾に、独立系証券会社を断るよう企業側に迫った事例もある」と明かす。
 実際、金融庁が4月に公表した企業アンケート調査でも、37社中5社が社債発行などで「グループ証券会社の利用について銀行から言及があった」と回答した。日本証券業協会は「企業が銀行に忖度(そんたく)しかねない」と指摘する。
 産業界からは、特に立場の弱い中小企業への影響を「慎重に見極めてもらいたい」との声が漏れる。大企業もM&Aなど案件ごとに取引金融機関を選択したいとのニーズが強く、「必ずしも銀証連携のメリットを感じない」という。銀行界と証券界の主張がぶつかる中、顧客メリットを意識した制度設計が不可欠だ。 

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