中国、「尖閣」「処理水」で対日圧力=米にらみ決定打回避 2021年04月30日

 【北京時事】中国政府が、沖縄県・尖閣諸島や東京電力福島第1原発の処理水をめぐる問題で、日本に対する圧力を強めている。背景には米国との同盟関係強化に動く菅義偉首相に対する不信感がある。ただ、米中対立解消のめどが立たない中、日本との決定的な関係悪化を避ける「寸止めの対応」(日中関係筋)が続いている。
 中国は、先の日米首脳会談で52年ぶりに文書で台湾情勢に言及されたことや4月27日に公表された外交青書で中国の海洋進出に「懸念」を示したことなどに反発している。中国が領有権を主張する尖閣に関して、バイデン米政権が日米安全保障条約の適用対象だと改めて確認したことへの不満も大きい。
 これを受けた形で中国側の報復とみられる動きが続いている。中国政府は26日、衛星情報に基づく調査結果として、尖閣諸島の詳細な地形図をネット上に公開した。地形図には中国独自の地名も記され、領有権主張を補強しようとするものだ。
 27日には、昨年10月に尖閣の領有権を主張するため中国政府が中国語で開設したウェブサイト上の「デジタル博物館」に日本語版が加わった。さらに同じ日、中国軍の空母「遼寧」に搭載された早期警戒ヘリコプターが尖閣に近い空域を飛行した。
 29日付の共産党機関紙・人民日報系の環球時報英語版は、尖閣周辺での遼寧の動向について「最近の釣魚島(尖閣の中国名)に関して誤った発表を続ける日本に対する警告だ」と主張する専門家の見解を掲載。この専門家は「問題が解決するまで中国軍は同様の動きを定期的に続ける」と予想した。
 原発処理水問題でも、日本政府の海洋放出方針に対し、中国外務省の趙立堅副報道局長が浮世絵の模倣画を使ってやゆし、日本側が抗議するなど、両国間には険悪なムードが広がっている。一方で、中国は日本企業に対する制裁的な措置は発動しておらず、関係悪化を決定付ける対応は取っていない。これには「米国をけん制するため、日本を取り込む余地を残そうとする意図」(中国の日本専門家)がうかがえる。
 中国では処理水問題が深刻な環境汚染につながると受け止められており、「中国の一般国民の反日感情に火が付く恐れ」(日本政府関係者)が指摘される。不測の事態をきっかけに両国関係が一気に対立に向かう可能性は次第に高まっている。 

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中国外務省の趙立堅副報道局長=2020年5月、北京(EPA時事)
中国外務省の趙立堅副報道局長=2020年5月、北京(EPA時事)
中国外務省の趙立堅副報道局長がツイッターに投稿した原発処理水をめぐる浮世絵の模倣画(同氏のツイッターより)
中国外務省の趙立堅副報道局長がツイッターに投稿した原発処理水をめぐる浮世絵の模倣画(同氏のツイッターより)

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