葬られる「学問への不介入」=助成金削減、日系人博物館にも―トランプ政権、80年来の原則軽視・米 2025年05月12日 14時04分

全米日系人博物館による研修で、教員が訪れた西部カリフォルニア州のマンザナー強制収容所跡(ユーチューブより)
全米日系人博物館による研修で、教員が訪れた西部カリフォルニア州のマンザナー強制収容所跡(ユーチューブより)

 【シリコンバレー時事】トランプ米大統領と、その右腕として振る舞う実業家イーロン・マスク氏が進める政府予算削減の矛先が、政権の意に沿わない教育や研究への助成金にも向けられている。「助成するが介入せず」。米国で80年の歴史を持ち、技術革新や人権・平等を支えてきた学問に関する原則が、現政権によって軽視され、葬られようとしている。
 ◇宙に浮いた教員研修
 「語られることのない歴史や声を封じ込めようとする動きがある」。ロサンゼルスにある全米日系人博物館(JANM)のバロウズ館長は、トランプ政権下で強まる圧力に危機感を示す。
 JANMは米各州から教員を招き、第2次大戦時の日系人の強制収容について学んでもらう研修を実施している。ところが、マスク氏が率いる「政府効率化省」は、博物館や図書館に資金支援を行う公的機関「全米人文科学基金(NEH)」向けの助成金を停止。JANMへの支援にも影響が及び、研修実施が一時宙に浮いた。
 事態を憂慮した有志から寄付が集まり、今夏の研修は実現のめどが付いた。だが、困難は終わらず、次は博物館の空調設備改修資金が打ち切りに。約16万点に上る収蔵品の保存・管理が危ぶまれている。
 ◇「反米思想」を排除
 マイノリティー(少数派)差別は米国の歴史から切り離すことはできず、現代社会が抱える問題でもある。近年の米政権は党派を問わず、歴史の負の側面に向き合ってきた。トランプ氏のスローガン「米国を再び偉大に」を選挙戦で使ったレーガン元大統領も、戦時中の日系人差別を公式に謝罪した。
 しかし、トランプ氏は「多様性・公平性・包括性(DEI)」政策を敵視。黒人奴隷や人種差別の歴史を扱う「アフリカ系米国人歴史文化博物館」や、建設中の「スミソニアン米女性歴史博物館」を名指しで批判し、首都ワシントンにある国立博物館や動物園などから「反米的な思想」を排除するよう命じる大統領令を出した。
 ◇すべての国民に
 学問の自由に関する米政府の原則は、フランクリン・ルーズベルト元大統領の科学顧問バネバー・ブッシュ博士がまとめた1945年の報告書で確立されたとされる。報告書は科学技術発展のため「研究者に自由を与えよ。政府は資金を出すが、中身に干渉すべきではない」と提言。これが50年の公的機関、国立科学財団(NSF)設立につながった。
 ブッシュ報告書は科学技術を念頭に置いたものだったが、その理念は65年、人文科学にも拡大した。同年の全米芸術・人文基金法が「芸術と人文科学は、すべての米国民のものだ」として、同様の原則を適用。これに基づきNEHが発足した。
 トランプ政権は、そうした経緯を無視。大学などの研究・教育機関に対しても「極左」「反ユダヤ」のレッテルを貼り、資金打ち切りをちらつかせて屈服を迫っている。経済や文化で米国の力の源泉を培ってきた学問の自由を重んじる伝統は今、窮地に追い込まれている。 

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