トランプ米政権、激化する「知」への攻撃=助成金削減で大学に圧力―人材流出、先行きに影 2025年05月05日 14時54分

ティモシー・スナイダー氏=2012年5月、ブリュッセル(AFP時事)
ティモシー・スナイダー氏=2012年5月、ブリュッセル(AFP時事)

 【シリコンバレー時事】トランプ米大統領による知識人層への攻撃が、激しさを増している。大学や大学院など教育機関への助成金が削減され、人文科学や科学技術分野の人材は海外に研究の場を求め始めた。米国は「知」の集積を競争力の源泉としており、国の先行きに暗い影を落としかねない。
 ◇著名教授、カナダへ
 「ナチスがドイツ人にしたように、彼は私に愛国を迫っている。私が祖国を愛するのは『王』がいないからだ」
 著書「ファシズムはどこからやってくるのか」で知られる名門エール大のジェイソン・スタンリー教授(哲学)は、独裁色を強め自身を「国王」になぞらえるトランプ氏を痛烈に批判した。スタンリー氏の両親は、ナチスによるユダヤ人大虐殺(ホロコースト)の生存者だ。
 スタンリー氏のほか、「暴政」を著したティモシー・スナイダー教授(歴史学)らは4月、同大からカナダのトロント大に移ることを明らかにした。反ユダヤ主義対策の不備を理由に助成金削減をちらつかせたトランプ氏にコロンビア大が屈し、カリキュラム見直しを表明した直後の「頭脳流出」は、米学術界に衝撃をもたらした。
 ◇「前例なき介入」
 スナイダー氏は、エール大の学生新聞への寄稿で、トランプ政権に対する反発が転籍の直接の理由ではないとしつつ、「米政府は反ユダヤ主義と闘うのではなく、あおろうとしている」と主張。反ユダヤ主義対策を大学への圧力の口実にすることが、むしろ人々の反ユダヤ感情を高めるとの見解を示した。
 エール大など米各地の大学学長や学術団体代表らは4月、共同声明を出し、トランプ政権が「前例のない過剰介入と政治的干渉で、高等教育を危険にさらしている」と非難。政権の要求に応ぜず補助金を凍結されたハーバード大は、凍結を無効とするよう求める訴訟を起こした。
 米国の大学は歴史や社会の研究を通じ、民主主義の根幹である自由や平等を支えてきた。政権による締め付け強化に、スナイダー氏は「団結して行動しなければ、多くの学者が米国を去るだろう」と警告する。
 ◇75%が転籍検討
 大学からの人材流出は、米国の経済にとっても痛手だ。ドイツ経済研究所(IW)の報告書によれば、全世界の大学が出願した国際特許のうち、米国は3割超を占める。
 企業による特許が利益確保を目的とする場合が多いのに対し、大学の特許は技術革新への貢献を重視する傾向が強く、経済への波及効果がより大きいと言われる。実際、スタンフォード大はインターネットの検索結果を優先表示するアルゴリズム(計算手法)を生み、グーグルを支えた。
 英誌ネイチャーの調査によると、回答した米国の研究者約1600人の約75%が海外に移ることを検討している。その3分の2は博士課程など比較的若い層で、研究費削減やビザ剥奪への懸念が背景にある。
 優秀な研究者に対する需要は高く、カナダやフランスは積極的に人材を受け入れる姿勢。政治的思惑による圧力強化が、結果的に米国の成長力を損なうとの懸念が強まっている。 

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