米鉄鋼再生の試金石=保護主義で衰退―USスチール買収 2025年06月16日 16時35分

米鉄鋼大手USスチールのロゴマーク(AFP時事)
米鉄鋼大手USスチールのロゴマーク(AFP時事)

 【ニューヨーク時事】トランプ米大統領は日本製鉄によるUSスチール買収計画を条件付きで承認した。かつて世界最大の製鉄会社だったUSスチールは日鉄の巨額投資をてこに効率化や生産増強を進め、慢性的な経営不振からの脱却を目指す。USスチールの行方は、関税など保護主義頼みで技術革新が遅れた米鉄鋼産業の再生を占う「試金石」(アナリスト)となる。
 1901年創業のUSスチールは、産業発展を支えた米国を象徴する企業の一つだ。ニューヨークの国連本部など著名な建物への鋼材出荷を通じて不動の地位を確立。60年代まで世界1位の製鉄会社として成長を謳歌(おうか)した。
 ところが、日本やドイツからの鉄鋼流入に押され、競争力が低下。2024年の粗鋼生産高は世界29位の1418万トンと、トップの中国宝武鋼鉄集団(1億3009万トン)に大きく水をあけられている。設備老朽化などで業績急回復が見込めない中、23年夏には身売りを含む戦略的選択肢の検討表明に追い込まれた。
 米国全体の生産高は80年代に日本、90年代に成長著しい中国に抜かれた。業界はUSスチール凋落(ちょうらく)と軌を一にして長期停滞に陥ったが、米政府は鉄鋼の輸入制限や関税措置といったその場しのぎの対応に終始。高コスト体質の抜本的な見直しは図られなかった。
 経営再建にかじを切るUSスチールの姿勢は業界活性化に一石を投じそうだ。ただ、トランプ政権は鉄鋼追加関税を50%に引き上げており、小手先の保護主義に頼る構えを崩していない。関税は鉄鋼業界の業績を一時的に押し上げる可能性がある半面、またしても技術革新などの対応は先送りされる懸念がくすぶる。
 米国野村証券の雨宮愛知シニアエコノミストは、関税による特定産業の保護は難しいと指摘。長期的には「業界の体質改善や生産性を上げる取り組みが必要だ」と分析している。 

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