イランの「体制転換」排除せず=イスラエル、中枢に攻撃拡大―最高指導者も標的か 2025年06月16日 14時32分

イランの最高指導者ハメネイ師=4日、テヘラン(AFP時事)
イランの最高指導者ハメネイ師=4日、テヘラン(AFP時事)

 【イスタンブール時事】イスラエルはイラン各地への大規模攻撃で、標的を徐々に拡大させている。イランによる核兵器開発の脅威を訴え、当初はウラン濃縮施設など核や軍事関連を集中的に攻撃したが、政府庁舎や経済を支えるエネルギー施設も狙い始めた。国家の中枢インフラに打撃を与え、イラン国内の動揺や混乱を誘って「体制転換」を図る思惑も透ける。
 イスラエルのネタニヤフ首相は15日、米FOXニュースで、攻撃に伴うイランの体制転換は「結果としてあり得る」と明言した。従来はイラン国民に蜂起を促していたが、さらに踏み込んだ形だ。イランで35年以上も絶対的権力を握る最高指導者ハメネイ師の暗殺も排除せず、トランプ米大統領の反対で自制しているとされる。
 イスラエルのハネグビ国家安全保障顧問も「当初は政治指導者らを狙わないと決めたが、今や免れられない」と強調。米紙ニューヨーク・タイムズは「戦争は極めて危険で、破滅的な第2段階に入った」とする専門家の声を伝えた。
 ハメネイ師はイスラエルによる13日の攻撃開始後、公の場に姿を見せず、報復攻撃の直前に動画演説が公開されたのみ。軍幹部ら要人が多数殺害されたことから、居場所を明かさず避難しているもようだ。同師は過去に暗殺未遂に遭って右腕の自由を失っており、身辺警護には細心の注意が払われている。
 防空網が手薄になったイランの首都テヘランでは、石油・ガスの貯蔵施設や製油所が攻撃を受け、大規模な火災が続発。国防軍需省や外務省も被弾し負傷者が出た。ペルシャ湾にある世界最大級の「南パルスガス田」も小型無人機で攻撃され、火災が起きた。
 イランは原油、天然ガスとも世界有数の埋蔵・生産量を誇る。米欧の制裁で取引に制約があるものの、経済苦境下でエネルギー資源の輸出は貴重な財源だ。アラグチ外相は15日、「シオニスト(イスラエル)は意図的にイラン領外まで戦火を広げようとしている。紛争をペルシャ湾地域まで拡大させるのは過ちだ」と非難した。
 イランでは2019年、政府補助金で安く抑えられていた燃料価格の引き上げに伴い、抗議デモが全国に波及。政府の厳しい弾圧で数千人が死亡したと、現地人権団体は推計する。攻撃による弱体化にとどまらず、イラン指導部が今後の対応を誤れば、市民の反発激化で体制の基盤が揺らぐ可能性もある。 

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