揺らぐ「移動の自由」=シェンゲン協定40年―欧州 2025年06月14日 13時57分

【ブリュッセル時事】欧州の加盟国内での自由移動を認める「シェンゲン協定」が、14日で署名から40年を迎えた。1985年に5カ国で始まった枠組みは、現在29カ国にまで拡大。出入国審査のない自由な往来は、域内の市民だけでなく、多くの旅行者にも恩恵をもたらしてきた。だが近年、移民・難民の流入を警戒する極右勢力が台頭する中、各国で国境管理を強化する動きが広がっており、「欧州統合の象徴」と称されてきた制度は揺らぎ始めている。
「きょうは全てのブルガリア人、ルーマニア人、そして欧州連合(EU)全体にとって喜ばしい日だ」。フォンデアライエン欧州委員長は昨年12月、シェンゲン協定への完全加盟が承認された東欧のブルガリアとルーマニアに祝意を示した。空路と海路で既に国境検査が廃止されていた両国では、今年1月から陸路でも自由移動が可能となった。
EUによると、拡大を続けるシェンゲン圏で、国境を越えて日々通勤する人は約200万人。経済への波及効果も大きく、昨年のEU域内貿易の規模は約4兆1000億ユーロ(約680兆円)に達した。世界最大の自由移動圏として国際観光の4割を占め、世界で最も多くの訪問者を受け入れている地域でもある。
しかし最近はこうした流れに逆行する動きが目立つ。欧州メディアによると、協定に加盟する29カ国のうち、ドイツやフランスなど11カ国が国境管理の再導入を欧州委員会に通知。各国とも不法移民対策や治安維持を理由としているが、実効性よりも、右傾化する国内政治や世論への配慮がにじむ。
最初の加盟国の一つで、協定の名前の由来となった村があるルクセンブルクのグローデン内相は、移民対策を理由に国境管理を強化する国々を批判。「シェンゲンはEUの偉大な成果の一つだ。人々の心に再び国境を刻むようなことがあってはならない」と訴えている。