スーダンの民族音楽データ公開へ=研究者が30年以上収集―内戦による「文化消失」阻止 2025年05月05日 06時02分

スーダンからエジプトに避難した民族音楽研究者で音楽家のダフアッラ・ハッジさん=4月10日、カイロ近郊ギザ
スーダンからエジプトに避難した民族音楽研究者で音楽家のダフアッラ・ハッジさん=4月10日、カイロ近郊ギザ

 【カイロ時事】3年目に入ったアフリカ北東部スーダンの内戦は、1300万人近くが国内外で避難する「世界最大の難民危機」と呼ばれる。エジプトに逃れた民族音楽の研究者で音楽家のダフアッラ・ハッジさん(52)は、30年以上にわたって収集したスーダンの民族音楽などのデータをアーカイブ化し、オンラインで公開する取り組みを進めている。国民が散り散りになる状況下で、無形の「生きた遺産」が消えてしまわないようにするためだ。
 エジプトの首都カイロ中心部の雑居ビル。薄暗い階段の先に「スーダン芸術家連合」の事務所がある。ギャラリーを兼ねた部屋では民族音楽のバンドが練習をしている。2023年4月にスーダンで勃発した正規軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の衝突で、国外避難を余儀なくされた芸術家らが立ち上げ、活動支援をしている。
 メンバーの一人であるハッジさんは、スーダン各地の音楽や楽器の音源、舞踏の映像をアーカイブ化するプロジェクトを統括。エジプトに持ち込めたデータだけでも約50テラバイトに及ぶ。誰もがアクセスできるように、年内にオンラインで公開する予定だ。
 「スーダン人にとって音楽は娯楽以上の意味を持つ」とハッジさんは語る。太鼓や手拍子が重層的なリズムを刻み、弦楽器が旋律を奏でる。ビブラートを利かせた歌声が、自然や心の機微を描写する。結婚式など人生の節目を歌が盛り上げ、亡くなった故人の生涯を歌詞に織り込んで弔う。
 こうした音楽に楽譜はなく、演奏されることで伝承されてきた。国民の多くが避難先の生活や文化への順応を強いられる中、ハッジさんは土着文化が失われる危険性を指摘。「文化を忘れれば、アイデンティティーを見失う」と危惧する。
 ハッジさんはまた、スーダン人が多く暮らすカイロ近郊ギザの住宅街で音楽教室も始めた。初心者の若者23人とコンサートの開催を目指す。スーダンで収集した伝統楽器はRSFが燃やしてしまったため、エジプトの市場やと畜場で素材を集め、楽器を手作りした。
 「戦前は文化の発展のために活動できたが、今は忘れ去られないようにすることしかできない」とハッジさん。正規軍は3月に首都を奪還したが、RSFはスーダン西部を掌握し続け、戦闘収束の道筋は見えない。「戦争は全てを否定する人類最悪の営みだ」。ハッジさんはそう語気を強めた。 

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エジプトの首都カイロ近郊ギザの工房でスーダンの伝統楽器を制作するダフアッラ・ハッジさん=4月10日
エジプトの首都カイロ近郊ギザの工房でスーダンの伝統楽器を制作するダフアッラ・ハッジさん=4月10日

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